「明けましておめでとう」

玄関前には吹雪がいた。
まだ午前四時前だ、少し早起き過ぎる気がするが起きている自分もなんだかんだで吹雪と同じだ。

紺色のロングコートを着用し、下はデニム素材のジーンズ、マフラーに顔を埋めていた、しかし吹雪の鼻は真っ赤である。

円堂はパジャマ…と言う名のジャージ姿で吹雪を出迎えていた、父も母もまだ就寝中であり、決まって朝の六時に鳴り響くアラームの音でないと目を覚まさない。


「あ、明けましておめでとう」

「今から出られる?」

「今からか…? まぁ大丈夫だけど」


吹雪からのいきなりの誘いは予想外だったからか少し眉を潜めて悩む。だが別に抜け出したからと言って憤怒する両親ではない、だからか吹雪の誘いに乗った。


ジャージ姿に軽くジャンパーを着込み吹雪と同じくマフラーを着用して「お待たせ」と言って玄関の中でただ座って待っている吹雪にそう声をかけると吹雪は頷きの代わりに微笑みを浮かべた。

目指すのは鉄塔の広場だという。


「初日の出が見たいのか」

「うん、お正月なんだし折角だからね」


まだ道は真っ暗だ、光を示すのは電柱だけで後は自然に目が暗さに慣れて少し視野が広がっただけだ。

吹雪も円堂もまだ子供と分類される年頃の人達が歩いて、もし警察に見つかってしまったら補導されるかもしれない…、だがたまにはいいかもしれない。


「吹雪は初日の出とか見たことないのか?」

「ないよ、あ……でも北海道は日が出るの遅いから見る気になれば見れたかもしれないなぁ」


吹雪はどこか嬉しそうに円堂の顔を見た。真っ暗の中でも吹雪の瞳はキラキラ輝いていた。
円堂は吹雪がそんなに嬉しそうにする理由を良くわからない、きっと早起きしたからであろう。


「吹雪はどうして俺を誘ったんだ?」

「なんか、質問ばっかりだね…」

「気になったら質問しなきゃ気が済まないタイプでさ」


照れくさそうに円堂は笑い飛ばして頭を掻く、思い返せば確かに…と少しだけ反省する。別に吹雪が怪しく思っている訳ではない、むしろ嬉しいくらいだ、ただもっと自分よりも親しみのある人物がいるのに何故自分なのか。

染岡に豪炎寺、風丸も吹雪のためならば頑張って早起きして吹雪の家の前で待ち伏せしていそうな人物がいる、そうでなくてもヒロトや緑川は付き添ってくれる人物もいる。
その中で吹雪が自分を選んでくれたことについ円堂の口元は綻んだ。


「キャプテンと見たいんだ…」

「へ?」

「キャプテンに最初に明けましておめでとうって言いたかったし、日の出も見たいんだ」

「そ…そんなこと言ったら俺だって吹雪に明けましておめでとうって言いたいし、二人っきりで初詣行きたかった!」


柄にもなく二人して顔は真っ赤である、寒さのせいではない。
ちなみに初詣は円堂や豪炎寺、鬼道そして吹雪の四人で屋台を練り歩くつもりだが果たして大富豪の息子と大病院の息子というブルジョア達がそんじょそこらの屋台の食べ物を頬張るのだろうか、頬張る姿はどうも想像できない。


黙り込んでしまった二人はただ分かりやすくも頬を染めて歩き続ける。


「吹雪は手袋ないのか…?」


はーっ、と息を手に吹き掛けて少しでも温かくしようと努めているも冷えきっているのは指先を見れば一目瞭然だ、いくら北海道生まれの吹雪でも堪えるくらい気温は低い。


「吹雪、手かして」

「え?」


吹雪が両手を差し出すと円堂は優しく吹雪の両手を包んだ。じんわりと冷えきった手の感覚を感じた。まるで雪の中に素手を突っ込んでいるような気にさえなる手を温めた。


「………キャプテン…?」


円堂も手袋をしていなかったが吹雪ほど手は冷えてはいない。
吹雪はすこし奇妙そうな顔で円堂の顔をまじまじ見つめていた、多分長い時間、人の居ない道の真ん中で手を握っていたからであろう、気が付いた時には円堂は笑い誤魔化すしかしかない。


それからはほぼ二人とも黙ったまま鉄塔に着いた。
気まずい訳ではないがなんとなくもどかしく、ゆっくりと時間が流れているように感じた。


「なぁ、吹雪……」

「どうしたの、キャプテン」


二人の座るベンチは冷たい、そして年季が入っているのか少し体勢を変えると古めかしさを醸し出させるような音がなる、今にも壊れてしまいそうな脆そうな音だ。


「俺、吹雪と一年やって来てわかったんだ……」

「なにを?」

「やっぱ、吹雪は俺が支えてやらなきゃなーってさ!」

「僕がキャプテンを支えてあげる方が正しいと思うなぁ」


吹雪は少し頬を膨らませて少しだけ怒っているような素振りを見せるも円堂にはまた可愛い素振りにしか見えない。
白い歯を見せる笑顔で吹雪の小さな頭を撫でると吹雪は子供扱いされているのが悔しそうな顔で円堂を見上げた。


「キャプテンはそうやってすぐ僕のこと子供扱いけど、実際は僕の方が大人だと思うよ!」


負け狼の遠吠えだ、フィールドの上ならば勇ましく吠える狼はただ悔しそうにして反撃するが円堂には全くきかない。


「大人になりたいんならまずはブラックコーヒー飲めなきゃな!」

「かっ、関係ないよ!」

「吹雪はやっぱ可愛いなぁ」


円堂は意外にブラックコーヒーが飲めたりする、近くにいる豪炎寺や鬼道が嗜むのを見て負けず嫌いからか飲み始めた。しかし苦味があるものが苦手な吹雪はミルクをかなり入れないと飲めない。

円堂は静かに優越感を感じていた。


「キャプテンってさぁ、可愛い可愛いって言いすぎだよ」

「吹雪が可愛いのは間違いじゃねぇもん」

「うぅううううーっ!」


そして笑いながら吹雪の頭をまた撫でると悔しそうにうめき声を上げながらこわくもない睨み付けをしてくるのである。


「……士郎?」

「ずるいよ、キャプテンは!」

「キャプテンじゃないだろ?」

「うぅううううーっ」


吹雪は顔を真っ赤にして悔しそうに足をバタつかせている。円堂に名前で言われるのは妙に気恥ずかしいらしく照れるのだ。

円堂は思えば意外と好きな子はとことん弄るタイプだ。


「……まもるくん…」

「君付けすんなよ」

「……ま、まもる…」

「そうだ、それそれ……士郎にそうよばれるとさ、なんか嬉しいんだよな」

「僕だってそうだもん…!」


ふたりの顔の距離はもう目と鼻だ、円堂はつい恍惚そうに上目遣いする吹雪の頬に手を添えた。普段ゴールキーパーを務めているような力強い印象はまったくない。

そしてゆっくりとした動作で吹雪の唇に自身の唇でふさぐ、触れ合うように優しく。


「まもる………」

「俺からのお年玉だ!」

「いみわかんない!」


唇を押さえながら吹雪は今まで以上に顔を赤くして円堂を見るといつものような無邪気な笑顔を浮かべていた。


「今年もよろしくな、士郎!」

「こちらこそ…まもる」


抱き合う二人を祝うかのように日が顔を出して稲妻町を温かな日の光で包み込む。


今年も二人の関係も始まったばかりの初々しいものだ。








こんにちは、よろしくね

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お正月にアップしようと思ったら意外と掛かった……

今年初めの円吹
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