吹雪が好きな食べ物と言えばまず甘い物だ。
油ぎとぎとで濃い味のフライドチキンや唐揚げが好きな南雲から見てみればつい眉を潜めてしまう、甘い物などもっての他だからである。
確かに夏場のアイスは許せる、小さなチョコレートも食べられる、だがあまり好んで食べようとしないのは南雲が元々甘い物嫌いだからだろう。
現に吹雪は南雲の横で生クリームがびっしり詰まった上にチョコレートがコーティングされて苺が盛られているクレープを頬張っていた。
「うまそうに見えねぇ……」
「心外だな…、ここのクレープ凄くおいしいって人気なんだよ」
元々南雲は吹雪の帰り道の付き添いで公園の入り口駐車場を陣取るクレープワゴンに来て、そこらの公園に備え付けられているベンチに腰を下ろしていた。
周りは公園だけに駆け回って遊ぶ子供は多い、木枯らしが吹くこの季節は流石の吹雪も応えるらしく鼻の頭を真っ赤にして手袋を忘れたらしく袖口からは指だけしか出ていない、クレープを持つ手はあまりに不安定だった。
「南雲も一口食べる?」
「いや、俺はいらねぇや……コーンポタージュの味分かんなくなりそうだし」
南雲は不意に息を吐くと白くなっていた、これだけ寒い季節なのだ。
この寒さを肌で感じながら南雲はおもいっきりコーンポタージュの缶を振って開栓すると、自分の周りには生クリームとはまた違うコーンの甘い匂いが立ちこめていた。
「うめぇぞ、これ……飲むか?」
「ううん、今はいいや」
「冷めるだろ、こーゆーのって冷めると美味くねぇぞ?」
「クレープの味分かんなくなっちゃうもん」
吹雪は南雲にそう言って一瞥し、またクレープに頬張り付く、長い時間ここにいた訳ではないが吹雪の食べるクレープはまだあまり減ってはいない。
南雲ははしたなく音を立てながらコーンポタージュを飲みながらおいそうにクレープに頬張り付く吹雪を見ていた。
「なんかお前食ってると美味しそうに見える………一口くれ」
「いいよ、あ、苺ないところ食べてね」
「苺どこだよ……生クリームで見えねぇつうの」
吹雪はおずおずと苺と生チョコクリームの甘ったるそうなクレープを南雲の前に差し出すと、南雲はクレープにかじり付いた。
暫くはただ無言で余所を見ながらクレープの甘さを味わっていた。
「甘ッ……」
「当たり前でしょ?」
涼しく吹雪にそうかわされると南雲は必死にただ口の中の甘ったるさをコーンポタージュの味で消そうとするも妙にクリーミーな味わいが口の中に広がってますます気持ち悪い。
ようやくクレープを食べ終わった吹雪はそんな南雲を見ながらため息をつき、バッグの中から飲みかけのペットボトルのお茶を差し出す。
「気持ち悪かった、有り得ねぇ………」
「なんで食べたりしたの?」
「好きな奴が食べてる物は美味しそうに見えるんだよ」
ぽつりとうわごとのように呟かれた言葉は吹雪を硬直させるのには十分だ、南雲はいつになく真面目な横顔でそんな言葉を呟いた。
「ほら、いくぞ」
「なぐも……あの、今…」
動揺して鼓動が早まる、こんなはずじゃないのに、相手が南雲なのにこんなに頬に熱を感じてしまう…いつもならビンタ出来る南雲の顔も今日はまともに見られない。
だが吹雪の前に南雲の二本の指を突き出した。
「……二週間」
「え?」
「二週間以内でお前を落としてやるよ」
「はぁ、南雲何言って……」
「賭けたっていいぜ、俺本気だから」
これから二週間、彼からクレープよりも甘い南雲のアプローチを受けるのはまた別の話である。
冬の似合う甘党さん
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クレープをグレープって打ってたのに気付いたのは書きおわった後だった