学校生活において昼休みは生徒達の細やかな休息な時間に違いない、好きな食べ物を友人達と語り合いながら食べるのは彼らにとっても勉強というものからの気休めになる。
勿論吹雪士郎にとっても全くその通りだ、今日は早朝から起きて何となく手の込んだ弁当が作りたいとふと思ってただ突発的に朝から卵と砂糖をたっぷり浸したフレンチトーストを焼いたり、ミートソースを元のトマトホールから作ったラザニア等々、それも少し多めに作った。
しかしスクールバックを覗いてもその弁当の姿はない。
吹雪は何度もバックの中に収めてある物を取り出したりしてみてもやはり弁当も一緒に入れていた飲料水もない、作りきった達成感が先立ったあまり吹雪は今日のための特製デラックスな弁当を家の玄関に置いてきてしまったらしい。
吹雪は東京に住んでいた親戚のマンションを借り、一人で暮らしていたため弁当を誰かに持って来て貰う事は出来ない、自分で取りに帰るとしても学校から家までは電車を何度も乗り継ぎ決して近いと言える距離ではない。
こんな時に限ってとぼやきながら財布を探して仕方なく購買で何かを買って食べようとするも、財布はない。
そういえば昨日スーパーで物を買い足した時に一緒にエコバックの中に入れっぱなしだった。
サッカー少年達の昼ご飯を食べる場所は決まって学校の屋上だ。
誰が言いだしたのかは分からないが屋上で皆決まって食べていた、ほぼサッカー部員達が屋上を占領しているため吹雪にとっても顔を知る人物だけしかそこにはいない。
「あれ?吹雪昼飯は?」
食べるものもなくただぼんやりしているところに現われたのは我らがキャプテン円堂守だった。
彼はいきなり吹雪の頭上からそう声を掛けて吹雪の隣の朝コンビニにでも買ったのだろうか、パンの入ったビニール袋をぶら下げていた。
「………うん、うっかりしてね」
「そうか、じゃあこれ半分やるよ!」
「え………?あ、ありがとう…」
円堂は腕にぶら下げていたビニール袋からメロンパンを取り出して思いっきりちぎって吹雪に半分差し出した。
吹雪は思わぬ差し出しに声を上げた、食べ物に執念深い円堂が自分に何かをくれるのはあまりに思いに寄らなかったからである。
「………お金とったりする?」
「するわけないだろ、吹雪だからな!」
ふと吹雪は円堂の言動に、じゃあ他の人なら取るのか?という疑問が浮かんだが気にしないことにした。
「どうしたんだ、吹雪…弁当かなんかないのか?」
豪炎寺と鬼道は吹雪にそう立て続けに声を掛けていた、先程円堂からもらったメロンパンをかじりながらうんうん頷いた。
二人は顔を見合わせた後に弁当からご飯を豪炎寺の弁当の蓋に乗せて差し出し、鬼道も同じくご飯を乗せて差し出しているところに風丸お母さんが顔を出した。
「ほら、俺はこれやるよ」
といいつつ豪炎寺の弁当の蓋に立派な塩鮭をポンとのせ、割りばしも吹雪にあげていた。
そんな異様な光景を見兼ねて人はどんどん集まってきた。
基山は甘口の卵焼きを南雲はウィンナー、涼野は珍しく自分の好きなグラタンを吹雪の持っている弁当の蓋におく。
「俺はな、なかなか人に唐揚げやらねぇんだぜ!特別に思えよ!」
とか捨て台詞のようなことを吐きながら染岡は唐揚げをあげ、そのよこの綱海は焼きそばを紅しょうが付きでのせた。
綱海をみた立向居はタマゴサンドをのせて木暮は珍しく何もいたずらせず素直に肉じゃがをのせていた。
「吹雪ー、ほらほらこれあげる!」
フィディオは吹雪を引き寄せてコンビニで買って来たらしい湯気がでているミートソースをのせていると、無言でテレスがサイコロ肉を二、三個のせて、うまいから食ってみろとだけ言う。
喉も渇いたでしょう、とエドガーが言いながらすっと吹雪の前に紅茶を差し出していた、そしてそんなエドガーを退かすようにマークとディランは現れてジャンクフードであるハンバーガーをちぎって半分とエスサイズのフライドポテトを渡す、さすがに貰いすぎたことに気付いた吹雪が遠慮するもみんなはもらっておけよ、とだけいう。
「ほら、可哀相な吹雪ちゃんにこれやるよ」
不動は購買で買って来たらしいイタリアンな弁当からプチトマトだけとって静かに吹雪の持つ今や色とりどりのおかずたちの中に添えた。
「不動、これはお前が食べろよ」
佐久間が慣れた手付きで箸でプチトマトをすくい、器用に不動の持っている弁当の中に戻し、代わりに弁当に同封されていたイタリアンには似合わない杏仁豆腐を取る。
「え、いいの?」
「仕方ねぇな、報われない可哀相な吹雪ちゃんに特別サービスしてやるよ」
吹雪の昼は豪華だった。
自分が作ったものより寄せ集めだが美味しそうに見える、何回もみんなに感謝の言葉を述べながら今日も仲間の輪の中でご飯を食べた。
後でみんなにお礼で料理をご馳走しようと思いながら………
本日、絶好の弁当日和
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みんな吹雪に優しければいい