とあるよく晴れた昼下がりのことだった。
吹雪が足を止めた店は喫茶店だった。
きっと外に漏れだす程のバターがふんだんに使われているクロワッサンの匂いに釣られたのだろう、現に吹雪は隣にいる基山さえも目に入っていない様子でふらりと次に喫茶店のメニューを確認しだした。
「ねぇねぇ、このお店寄っていってもいい?」
基山はもちろん拒む理由はない、むしろ吹雪の買い物の付き合う(本人曰くデート)時間が伸びて一緒に居られるも基山にとっては幸福である。
基山はただ頷いて「いいよ」とだけ言う、その言葉は基山の中では一番甘く囁いてみたつもりらしいが吹雪は普通にスルーであった。
吹雪が先頭を切って中に入れば珈琲豆の香ばしい匂いが喫茶店中に広がっているなかでやはりバターがふんだんに使われているクロワッサンの匂いも立ちこめている、風情あるいい喫茶店だとか雰囲気あるじゃないかだとか吹雪が好奇心からキョロキョロする横で基山はそう喫茶店をベタ褒めする。
「あっ、吹雪さんじゃありませんか!」
聞き慣れた……いや基山にとっては聞き慣らされた声がした。
ただ無心に声のした方を見ればやはり想像を裏切らない人物が豪炎寺を連れてテーブル席に座っていた。
「虎丸君!」
吹雪が呼んだ人物は間違いなく宇都宮虎丸と呼ばれるイナズマジャパンのメンバーだ、偶然出会ったのか…はたまた必然的にそこに居合わていたのかは知るよしもないが吹雪はあまりに嬉しかったのか虎丸達のいるテーブル席に座った。
偶然四人席で二つほど席は空いていたのだ。
基山は小さく舌打ちをした後に豪炎寺側の空いている席に静かに座った。
「吹雪さんはなんか頼みますか?ここのクロワッサンとーっても美味しいですよ!」
「うん、ここのクロワッサン前から美味しそうで一回でいいから食べてみたいって思ってたんだ」
ふふっ、と吹雪はメニューリストから目線を外して虎丸に微笑み掛ければ虎丸は頬を林檎のように赤くしながらつられて笑っていた。
基山ヒロトは生憎そんな微笑ましい光景を微笑ましいとは思ってはいない、むしろ恨めしさまで感じていることだろう、自身の怪力かエイリア時代の力を蘇らせたのか握られたお絞りから全ての水分を奪うように少しの水滴が滴る。
「ふ…吹雪……それにしてもどうしてここへ?」
場の空気を替えようと豪炎寺が話題を代える、勿論自分の横でただ無心に恨めしさをお絞りにぶつけている基山への細やかな心遣いである。
「ヒロト君とお買い物してたんだ!ほら、僕さこっち来ても私服一着しかなくてさ……だからヒロト君と服買ってたの」
ライオスコット島では基本的にイナズマジャパンのジャージを着用が義務付けられているがプライベートとなると話は別で私服はやはり必要だった、しかし吹雪は入国したときの簡単な私服だけでそれ以外は持って来ていなかった。
それを聞いた基山は吹雪をさりげなくデート……ではなく買い物に誘ったのである。
「へー……そうだったのか…」
「うん、ねーヒロト君!」
豪炎寺はさりげなく基山に視線を送ると基山はまるで鬼の首をとったかのような顔で虎丸を見ていた。
互いに性格が悪いらしい、おまけに相性も悪いらしい。
「僕ね、このホイップが乗ったアイスココアとクロワッサンがいいな、ヒロト君は」
「あ…俺はカフェオレで…」
可愛らしい容姿はやはり頭の中や嗜好品も可愛らしかった。
思わず癒される豪炎寺は少し舞い上がり気味で手元のコーヒーに手を付けた、ブラックのコーヒーは少し甘ったるく感じた。
基山は少し遅れてメニューのおすすめページからカフェオレを選んだ。
「吹雪さんはやっぱり可愛いです」
「……?」
虎丸は軽く吹雪にそう呟く。
小学生とは思えない堂々とした態度で基山に視線を促した。
基山もそれに答えるように睨み返す、静かな争いである。
「あっ、店員さん!オーダーしてもらってもいいですかー?」
おっとりした声が店員を呼んだ。
その傍ら静かに闘いは始まっていたのであった。
喫茶店での正しい争い方
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リクエスト頂いた
虎丸VSヒロト→吹雪さん……
遅くなってすみませんでした!
グランドファイヤでイグニッションな方々と吹雪と言う組み合わせが物凄くツボな今日この頃