いつもより時の流れが遅く、まるで時の流れに取り残されたような気分になったが実際はただの感覚的な問題で他人とは時の流れだって変わらない。


吹雪はただ手術室の前でじっとその時を待つ。

横には意外にも人はいなかった。イナズマジャパンのメンバーは今、グラウンドで練習に励んでいるだろう。
実際ならばイナズマジャパンの一員である吹雪もその練習メニューをメンバーと共にこなしているはずだが病院のソファーに軽く腰掛けていた。


「手術はまだまだ掛かるんだ、手術終わったらすぐ教えてやるから練習して来いよ」


「だめ、一之瀬君と約束したから」


ぴしゃりと吹雪がそう言えば土門は言葉が出なくなる。
一之瀬のためにここまでじっと待っている吹雪が不思議で土門は仕方なかった、木野や円堂なら分かる、豪炎寺や鬼道でもなんとなく分かる。


あまり面識の深くない吹雪が何故ここまで一之瀬の手術結果を聞くためにじっと待つのか全く分からない、そもそも約束を交わす程の仲なのか……。


「どんな約束したんだ?」


敢えて土門は自分よりも小さい子供に話し掛けるような柔らかい口調で吹雪に尋ねた。


「……おいて行かないでって……傍にいてって……」


「へぇ……、一之瀬が…」



弱音の様な言葉が一之瀬の口から出るとは思わないが吹雪の顔は嘘をつくような顔ではない。
土門にも弱音は吐かなかった、そう思うと吹雪は一之瀬は仲がいいのかもしれない。


「吹雪は一之瀬のことどう思ってるんだ?」


「だいすきだよ、優しいし格好良いし」


案の定即答だった。
土門の謎は深まり、沈黙を作りだしてそれから何時間経っただろうか、全く時計など目もくれなかったせいか正確な時間は分からないが徐々に日が沈んでゆくことから一日の大半を此処で過ごしたのは間違いないだろう。


手術は成功だった。


安静になるまで一之瀬と面会出来ないせいで結局日はとっくに暮れていた。
土門は吹雪になんとなく面会を先に譲った、特に理由はないが心の何処かでそうした方がいいと思った直感的にそう思った。




「一之瀬君…」


「あ、吹雪……待っててくれたの?」


「当たり前だよ、すごく心配した、手術失敗したらどうしようって……」


吹雪の声は震えていた、歪んでいたの方が正しい表現かもしれないがとにかく泣きそうにしていることは確かだった。

そんな泣き出しそうな吹雪を一之瀬は立ち上がれなかったが自分方にそっと招き寄せて抱き締めた。

「大丈夫だったから…安心して、泣かないでよ」


わんわん泣き喚く吹雪は静寂な病室に轟き渡る。
思えば吹雪がこんなに泣いた姿は初めて見た、自分の為に此処まで涙を流してくれる吹雪を改めて愛しく一之瀬は思う。


「一之瀬君とまたサッカーしたいもん、サッカーしてる一之瀬君が大好きなんだもん!」


また泣く声が大きくなるもあまり気にはならなかった、むしろ一之瀬にとってあまりに喜ばしく思う。
一之瀬はなだめるように吹雪の頭を撫でて「大丈夫、俺サッカーまた出来るよ」と囁けば、吹雪は何度もこくこくと頷いた。

吹雪の顔は涙で濡れて折角の綺麗な顔立ちは台無しだった。


だが吹雪はそれさえ気にならないほど一之瀬に夢中に違いない、一之瀬もまたどんな表情を浮かべる吹雪に夢中だった。



思えば二人は恋人だった。








頭の中、君一色

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リクエストありがとうございました!

初の一吹(と土門)ですが、上手く伝わるといいです、私が思う一吹はこれくらい…正に少女マンガみたいな甘酸っさだといいなと勝手に思っております。

それではこれからサイト共々よろしくお願いします
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