吹雪は少しだけ悲しい目でイギリス戦のテレビのあるロビーから背を向けて松葉杖を使いおぼつかない足取りである出した。

「あれ、おい、まだ試合終わってないぞ」

俺は吹雪を呼びとめるも吹雪は止まることなくやはりおぼつかない足取りで一歩一歩ゆっくり離れていく。

その後ろ姿はあまりにも脆く感じた。

イギリス戦は前半が終了し、ハーフタイムにさしかかった。染岡の決めた一点は大きく彼は喜びを隠すことなく喜んでいる。

確かに吹雪には苦痛かもしれなかった。俺にとっても確かにそうだが吹雪の悔しさはきっと俺より上であろう。
彼はそれだけ必死に練習に打ち込んでいたことを俺は知っている。
「緑川君、いくよ」

「ああ、でも試合………」

「いいんだ、見なくても……」

何か付けたそうとした言葉は後半が始まる知らせのような声援で聞こえなかった。
吹雪は逃げるように立ち去ろうとする。

「吹雪、折角の世界での初試合だよ?」

「いいの」

あまりに淡々としシンプルな答えは余りにも脆く歪んだ声だ。
吹雪はこっちを向いてはくれない。

俺はすぐに吹雪を追いかけ、顔を覗けば彼は目を真っ赤に腫らして泣いていた、嗚咽で肩が震えていた。どんなにジャージで涙を拭ったのかジャージの裾の染みが物語っている。

「やだ、見たくないよ」

歪んだ声はあまりに小さく嗚咽交ざりで聞き取りにくいものである。
俺は吹雪を逃がさないように肩をつかむめば、彼はあまりに驚いたらしく一瞬ピタリと涙が止んだ。
「みんな頑張ってるんだ、見よう?」

「見ていると悔しくなるんだ」

虚しくもなるし置いていかれた気もする、と吹雪はまた泣きだす。
「俺がいるだろ?」

あまりにも自身も驚く言葉が口から出た。吹雪もやはり驚いていた。

「俺は吹雪を置いていったりしないし、ずっと一緒にいてやるよ」
あまりにプロポーズに似ている言葉に吹雪も俺も驚くしかない。

ああ、その時やっと気付いた吹雪のことがずっと好きだったのだと………


その後主医に
「息子の嫁になる子を泣かせるな」なんてたしなめられた。

「吹雪は渡さない」

とだけ豪炎寺親子に宣戦布告しておいた。








君と俺との病院事情

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緑川も戻ってこい

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