超次元ロボ ダイユーシャ4








物心つく頃、父はいつも家にいなかった。
だけど母はそれを気にしたりはしない、ましてや父の帰りについての話題など出したことがない。「なんで帰って来ないのか」と問いかけるとただ寂し気に微笑み返してくる。

たまに帰って来れば、ロボットの模型やプラモデルをプレゼントしてくれるくらいで遊園地に連れて行ったりなんて言う家族サービスなんかしない父だった。

光定はそんな父の背中を見つめて、ああはなりたくないと思い続けた。せめて大切な人に寂しい思いをさせたくはない、守るべきものを命を賭けてでも守ると。小さな頃から胸に刻み付けていた。


  *



いつまで経っても訪れない衝撃に少し戸惑いながら目を開けた。まず目に入ったのは腕の中にいる小柄な少年だった。彼もまた痛みに耐えるのを覚悟したかのように固く目を閉じている。


「……あれ……?」


夢でないのに何故衝撃がいつになっても来ないのか、そう思いながら顔を上げると横たわっていた大型のロボットが地に足を着き、ドラゴンの刄を受け止めていた。
普通ならば現実味がないと、目の前の光景そのものに驚くべきであるだろうが、それよりも助けられたことの安堵の方が大きかった。


「だ、ダイユーシャ!」


腕の中に治まる少年は嬉々して声を弾ませる。ダイユーシャたるロボットは意志があるのか少年の方を一瞥し、頷いてみせた。


『マタオマエカ、ダイユーシャ……』

『何故お前達はそこまでしてサイクオリアを狙うのだ』

『セイギノミカタニハ、カンケイノナイコトダ』


漆黒のドラゴンはやや嫌味のように吐き捨てる。光定にはサイクオリアたる物が分からない。それはおろか全ての状態を把握していない。この非日常は驚くことしか出来ない。


「ファントムブラスター、帰るよ……今の君では分が悪いみたいだ」

『カロン、キサマカ』

「サイクオリアが目の前にあって手に入れたいのも気持ちは分からない訳でもない……でも今は退いた方がいい、レン様もそう仰っている」


いきなり林の中から現われたのは一般人ではない。それと掛け離れて漆黒のドラゴン『ファントムブラスター』と同じく漆黒の衣装に身を包んだ少年が勢いが有り余るドラゴンにそう話掛けた。
最初こそ腑に落ちないような動きを見せてきたが少年の口から告げられた『レン様』と言う単語を聞き、ドラゴンは少年を乗せて捨て台詞も無しに天高く舞い上がって消えた。

ドラゴンが消えると周りはいきなり明るくなり、元の森へと成り果てていた。まだ腕の中に少年がいることを思い出して謝罪を何回も繰り返しながら少年から離れた。
少年は逆に感謝の言葉を何度も口にしていた。


二人が気付くことはなく、木の影から一人の青年が息を殺してじっと睨みを利かせていた。アイチ、そう呼び掛けるように囁きその場を後にした。




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