『シザーハンズ』
*「おうたをきかせて」さまに提出
誰でもいい、誰かに愛されたい。それだけが望みだった。
自分だって人間だ。雪に触れれば雪は体温で溶ける
心だってあるし、見る世界も人とは何も違わない
でも、俺には力があった。普通の人にはないはずの力が
自販機を持ち上げたり標識を根元から引きちぎったりなんて普通の人間にはできないはずなのに。家族だって皆普通で、俺だけが違う
自分の力に気がついたときから俺は神様が嫌いだった
高校に入っても俺は平和なんて迎えることなんかできやしなかった
神様は不公平だ。なぁ、なんで俺だけ、化け物にしたんだよ。神様。
+++++
いつものように時間は街も人も巻き込んで永遠に過ぎ去っていく
そんな必然の中の限られた偶然。
いつもの喧嘩の途中にそれは起こった
逃げ続ける奴を路地裏に追い込んで逃げ場を無くし、奴に標識を向けた瞬間
奴はドラム缶の上に乗ってくるりと振り返った
「ねぇ、シズちゃん」
「…その名前で呼ぶなって言ったろうが」
「君にずっと言いたいことがあったんだ」
「ンだよ」
「俺と付き合って」
「…は?」
「君は愛されるのなら誰でもいいんでしょ?だったら俺が君を愛してあげる。俺と付き合ってよ、シズちゃん」
その言葉は自分にとって甘い蜜だった。俺にそんな言葉をくれる人なんて存在しなかったのだから。人物なんて二の次で、俺は誰かに愛されることを望んだ。
それが例え憎くて、憎くて仕方の無かった臨也だったとしても、だ
俺は、嬉しかった。嘘でもいい。自分を愛してくれる人を見つけた
+++++
それから真偽の分からない彼とコイビト、という関係になって
演技なのかもしれないが、態度の変わった彼と過ごすうちにいつの間にか俺も絆されていたようで、
彼とともに過ごす時間が有意義に感じられた頃、そして彼が恋人としての行為を望んでいると知った頃。俺は一つの壁に直面した
俺は、彼を壊してしまわないだろうか?
俺を愛してくれると言った彼を、壊してしまったらどうする?
いくら俺と喧嘩をしていたと言っても彼の力なんて凡人より少し上、程度で。
制御したとしても、俺が欲に負けてしまえば何をするかなんて分からない。
だから、俺は
「俺は、俺のせいでお前が壊れるのは、見たくない」
それを聞いた彼は少し悩んだ後綺麗に微笑を零した。
「大丈夫。何も心配しなくていいんだよ。俺はシズちゃんに壊されるなら本望だ」
「でも、」
「いいんだよ。俺はシズちゃんを、力を含めて愛してるんだから」
「…っ」
「人間も好きだけど、シズちゃんを一番愛してるから」
大丈夫、俺は壊れないよ。と
彼の目が、その言葉は真実だと物語っている
おずおずと彼の頬に手を当てると彼は俺の手に擦り寄ってきて。
俺はその愛しい存在に初めての、"愛してる"を送った
あぁ神様。今やっと俺は、愛を信じることができたよ。
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素敵企画さまに提出。
臨也は高校の頃からシズちゃんが好きだったんですよ、
と説明しないと分からない^p^すいません