手が離れない血鬼術 3



鬼が包丁片手に此方へ走り寄ってくるのに対して、突然炭治郎が構えた。
両手は互いにふさがっている状態で、善逸くんなんて気絶したままだ。

このままだと喰われるのは間違いなく、どうするつもりなのかと炭治郎へと視線を向けると、彼は身体をねじり此方へ飛びかかって来た鬼に思い切り身体を逸らす。

そして、

「たぁぁあっ!!」
「へぶしっ!!」

思いっきり頭突きをくらわした。

ああ、ごしゃって言った……。
言ったよ……。
鬼、頭から血流してるじゃないの……。

「今の内だ! 一旦距離を取るぞ!」
「善逸くんどうするの!?」
「引きずる!!」

そう言うや否や炭治郎が走り出し、わたし達は引きずられるように走り出した。
善逸くんなんて文字通り引きずられたままで……。
あ、多分これ痛いだろうなぁと心の中で合掌してしまう。
白目を剥いたまま両足が地面と擦れて、これ摩擦で火がついてしまうのではないかと心配するほどに。

鬼は一瞬気絶はしたが、すぐに復活してわたし達を物語の山姥の如く追いかけてきた。

「あー、もう復活した! せめて日輪刀を持てさえすれば……!」
「指先までしっかり張り付いて剥がれないんだ。この血鬼術さえ解ければ……!」

三人が輪になって走り続けているこの状態。
正面を向いて走れないからお互いに善逸くんを引きずってサイドステップで走り続けることになる。

ついに追い詰められて、わたし達はがけっぷちに立たされた。
鬼はだらだらとよだれを垂らしながら、わたしたちを見やる。
対して、わたし達は仲良く両手を繋いで輪になったまま。

鬼殺隊に入ったときに、死ぬ覚悟は出来ていた。

だけど、こんな最後になるとは誰が想像していただろうか。

まさに鬼殺隊に入って一番情けない絶対絶命の危機を迎えようとしたそのときだった。

「へ……、ギャーーッ! 鬼っ! 鬼がいる! ってか、ナニコレどういう状態!?」

最悪のタイミングで善逸くんが目を覚ました。
耳元で叫ばれてわたしと炭治郎は思わず外側へそらす。

「これさっきの状態と変わってないじゃん!? むしろ悪化してる!? それになんかすっげぇ痛いんですけど、足! ってかつま先燃えてないいいっ!?」

若干、若干である。
摩擦で熱を持った善逸くんの足下がぷすぷすと小さな煙を上げてるところまで見ている余裕は今のわたし達にはなかった。

善逸くんの悲鳴が上がり、その煙を消そうと必死にじたばたと足を動かして後ずさる善逸くんに、わたしと炭治郎が腕をそのまま引っ張られる。

「善逸、落ち着け! そっちは……!」

炭治郎が焦り声を上げた。
そう、善逸くんが動いた先は……崖。

「へ、わ……うわぁああッ!」
「キャーーーッ!」

善逸くんが崖から足を踏み外した瞬間、もちろん釣られたようにわたしと炭治郎も落ちる。
わたし達は悲鳴を上げながら、その崖から真っ逆さまに落ちていったのだった。






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