手が離れない血鬼術 6


炭治郎と善逸くんが駆け出し、それについていくのは至難の業だった。
必死に食らいつこうと急の舞の型をつかいわたしは走る。
そして二人の邪魔をしないように、鬼の頸が切られる前に鬼の前で跳躍し前転の要領で鬼を飛び越えた。

「ま、まだ調理法……、決めてなかったのに………」

鬼の悔やむような言葉に腹が立つも、宙でその頸が飛んだのを見て、ようやくこの任務も終わると息を吐いていたが、普段ではあり得ない体勢なだけに着地にまで意識が向いていない。

え、このままわたしもしかして転ぶ!?

慌てて体勢を戻そうとしたが後の祭り。
焦るわたしは衝撃を気にしてギュッと目を閉じると、地面にぶつかる前に炭治郎と善逸くんが身体を支えるように刀を持っていた手を伸ばしてくれた。

「鈴、大丈夫か!?」
「う、うん、ありがとう炭治郎。善逸く……ーー」
「ん、ふがっ。って、キャーーーっ!!?何!?なんなの!?なんで鬼の頸取れてるの!?こわいこわいっ!」

支えてくれた二人にお礼を言おうとしたが、ちょうど善逸くんも意識を取り戻したようで、飛び起きた彼はわたしにガシッとしがみついてきた。

寝ている時は本当にかっこいいのに……。

わたしが白けた視線を送っていると、炭治郎が困ったように笑った。

「さ、鬼も倒したし、藤の花の家紋の屋敷に行こう。慣れない体勢で戦ってたし、休んだほうがいいだろう?」
「賛成賛成っ! もう俺疲れたよぅ……。あ、でも鈴ちゃんと手握っていられてちょっと幸せだったかも、うぇっひひひひ」
「それさえ無ければ苦戦しなかったっていうのに、善逸くんってば……っと、あれ?」

炭治郎が刀を鞘に収めているのを見て、わたしは思わず目を瞬いた。
彼の両手が自由になっている。
自然と取れたのか、わたしと炭治郎を繋ぐものは鬼を倒したことで切れたのかもしれない。

ということは、善逸くんの方も取れ………

「…………、善逸くん、手、力入ってないよね?」
「え?」

わたしに抱きついてきている善逸くんに問いかけると、どうやら彼もわたしと炭治郎が離れたことに気付いたようだ。
そして、自分とわたしが繋がっている方の手を見てはしばし見つめ、反対にぎゅうっと握り返される。

「…………、善逸くん………?」
「ヒャーーッ!!ごめんなさいごめんなさいっ!でも少しでも鈴ちゃんと手を握っていたかったの!白くて柔らかい手に触っていたかったの!こんな機会二度とないでしょう!? 今すぐ離すから怒らな……、あ、あれ?」

泣き叫びながら善逸くんが手を離そうと力を抜いた。
だけどそれでも手が離れる気配はない。
わたしに怒られることを気にしたのか、繋がったままの手をそのまま左右上下にぶんぶん振ってみる。
わたしも疑問に思って、何度も振ってみるけどやっぱり何も変わらない。

そして、お互いに顔を合わせる。

「血鬼術、解けてない……?」
「うそ………」

そう呟くと、突然善逸くんの顔が思い切り緩み始めた。

「いやぁ、そっかぁっ! 解けないなら仕方がない、だって鬼の術だもんねっ! いずれ解けるとは思うけど、解けないのは仕方がないよぉっ!」
「そんな嬉しそうな顔をされても、説得力ないからねっ! ああ、もうどうしようっ……」
「まぁまぁ、鬼も倒したしゆっくり解けるの待とうよぉ。ひひっ、その間は鈴ちゃんとずっとこうしていられるぅ」

ニタニタと笑って嬉しそうな善逸くんにわたしは恨めしげな視線を送る。
だけど、それを静観していた炭治郎が腕を組んで何かを考え込んでいた。
そして、整えられた眉をハの字に下げてはゆっくりと首を捻る。








「喜んでいるところすまないが……、御手水に行きたい時はどうするんだ?」
※注釈:トイレ

「………………………」









炭治郎の言葉に、わたしと善逸の顔は一気に青ざめた。















まだ続く

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