年末の出来事


まだ少し寝惚けてる。
窓から入ってくる光は、何かと弱々しい。
むしろ少しぼやけてる感じ。
この時期に柔らかな日差しなんておかしいなって思いながら、俺はベッドの中で寝返りをうった。
もしかしたら外は雪が降ってるのかもしれない。
手を伸ばしてぬくもりを求める。
けどもその指先は何も触れなかった。
白いシーツがほんの少しだけ温かいだけ。

おかしいなって思うのと同時に、珈琲の良い匂いが鼻腔をくすぐる。
そして、それと一緒に俺の大好きな音がした。
心が澄んでいくかのような優しい鈴の音。

「ほら、善逸。そろそろ起きないと」
「ん……、鈴ちゃんがちゅーしてくれたら起きるぅ……」

優しい声、少し冷たい指先、そして鈴の長い髪が俺の頬をくすぐる。

ギリギリまで寝かせてくれる俺の彼女は世界一可愛い。
このまま布団の中に連れ込んで昨夜の続き、なんて考えたけど……
昨夜ちょっと無理させたっていうのもあるから、それは自重シマス。

そのかわり、キスを求めても許されるよね?
ね? ね?

「もう仕方がないなぁ……」

ほら! やっぱり鈴は優しいっ!
俺は目を閉じたまま、マシュマロのようにやわらかぁいキスを待つ。
心なしか唇を突き出しちゃったけど、それは鈴の唇を求めてるからでっ!
ドキドキと俺の心臓の音がいつも以上にうるさく鳴る中で、待機してみる。


朝から鈴ちゃんからのキスなんてなんて幸せなんだろう!
ああ、もう、俺、この生活から逃れられな……





ふに





感じた。柔らかい何か。
唇に当たったよ。確かに。柔らかいのが。柔らかくて、文字通り甘いものが。

そろそろと目を開ければ、そこには鈴の綺麗な顔……じゃなくて、白い物体。




ましゅまろ




「ッ………!!!!」
「あ、起きた。おはよう、善逸」
「おはよう……、じゃなくって!! なんで!? なんでマシュマロなの!? 俺、キスって言ったよね!? っていうか、マシュマロなんてどこにあったのさ!? 確かに柔らかくて甘いですけども!」
「唇の柔らかさってマシュマロに似てるんだって聞いて、寝てる君に試してみようかとそっとサイドテーブルの机に忍ばせてありました」
「用意周到だね! 流石は鈴ちゃんっ! でも、俺の悲しみは癒されないからねぇえっ!!」

えっへんと胸を張ってマシュマロの在処を教えてくれた鈴も可愛いけど、キスを待っていた俺としてはすごく寂しいんですけどもっ!?
血の涙を浮かべながら鈴を睨む俺に、彼女は眉尻を下げて笑った。

「あははは、ごめんごめん。でも、もうすぐ炭治郎達も来ちゃうでしょ? だから、その……、ここでキスしてそれだけで終われる自信がわたしにはない……から……」

やだこの子! 可愛すぎるっ! なんなの!?
え、キスして終われる自信がないって、昨日の続きをさせてくれるってこと!?
それを我慢してるってこと!? 朝から俺の息子が反応しちゃうじゃんっ!

頬を染めて視線を逸らして恥じらう鈴。
俺は身体を起こすとごくりと喉を鳴らして、顔を引き締めた。

「………、鈴さん」
「何?」
「炭治郎なんてどうでもいいので昨日の続きをしよう。大丈夫、あいつらなんていくらでも待たせればいいと思う。それよりも俺は鈴とのいちゃつきの方が大事であって、むしろ鈴に触りたいというか触りたいしキスしたいし抱きしめた……―――」











ぴんぽーん











鳴った。
今、インターホンが鳴った。
めちゃくちゃ鳴った。

そしてここから想像出来る状況を思い出して、俺は怒りで拳を握りしめた。

「竈門炭治郎です! 善逸ー、鈴ー、おはよう! いるんだよな? 入るぞー! お邪魔しまーす!」
「っ、お邪魔してんじゃねぇよっ!! 勝手に入るなって何度言えば分かんだあの天然石頭ぁあああ!!」

訪問者にぶち切れし、俺はむしゃくちゃと自分の髪をかき乱す。
おかしいっ、絶対におかしい。なんで、こうなるの!? 俺は何か悪いことした!?

泣きそうになる俺を見て、鈴はぽんぽんと頭を撫でてくれた。

「はいはい、お正月が終わったらまた構ってあげるから」
「俺は! 正月も! 鈴と一緒にいたいんだよぉおおっ!」
「これは神社生まれの悲しい宿命だよね……」

正月となれば鈴は実家の神社の手伝いで帰ってしまう。
その間、寂しく俺はヤロウ共と過ごさなければならないなんてありえねぇっ!

遠くを眺めながら鈴が呟くのと同時に、俺は泣きながら彼女の細い腰に抱きついた。

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