「で、なんで俺はお前に縛られてんだ……?」
「分かってて聞いてらっしゃいますか? どうなんですか?」
「俺は何も悪くない! そう、例えばお前が留守中にしのぶに構ってほしくて蝶屋敷に一晩忍び込んだり、蜜瑠を甘味屋誘って桜餅を食べてる間、白くて柔らかそうな胸を凝視してたり、町に出かけて大博打しかけたら大損したり、宇髄と一緒に酒飲んで煉獄の墓の前で大暴れしたりなんてしてないからな!」
「自白、ありがとうございます。しのぶさんと甘露寺さんについては後ほど本人と伊黒さんにちくっておきますので。あと煉獄さんにはその頭が擦り減るくらいにお墓に土下座してきてください、むしろ殺ってあげますのであの世で謝ってきてください」
「誘導尋問だ! 弁護士を呼んでくれーっ!」

 人が留守にしている間に、やはり家の中は大変なことになっていた。もちろん、近隣住民の苦情も含めて後処理を終わらせた頃、師匠はのんきに酒を飲んで帰って来たので、そのまま縛って今に至る。
 本当にだらしがない。こんな人によくわたしは五年間も大人しく従っていたのだろうか。本当に自分をほめてやりたい。

「おとなしくない、お前がおとなしい時なんて一切なかった」

人の心を勝手に読んだ師に、わたしは笑顔で黙らせた。ビクッと肩を揺らして師匠は遠くを見つめると、珍しく真面目に口を開いた。

「弟の事、前もって教えてやれずに悪かったな……」

 師匠なりの詫びだったのか、聞こえた声はいつもの殊勝さからかけ離れていた。わたしは掃除をする手を止めて師匠へと振り返る。

「わたしのことを思っての事だったのでしょう? ちゃんと分かってます」
「ん……、それならいいんだけどよ……」

 しおらしい師匠に、もしや今回の事は少し気にしてくれていたのだろうか。だとすれば、すごい成長ぶりだと失礼なことを考えつつも、気になっていたことを聞くには好機だと、わたしは改めて師へと向き直った。

「……鬼舞辻。わたしが切腹せずに済んだ理由もはそれですか?」
「うわ、怖ぇ。そこまで想像ついてるお前が怖ぇ」
「茶化さずに教えてください。本当ですか……?」

 真っ直ぐに師匠を見て問いただすと、師は縄抜けの要領で自分の罠をほどく。そして、誤魔化すのを諦めたのか、その紺がかった瞳をわたしへ向けてくれた。

「そうだ。お前の弟を鬼にしたのは鬼舞辻だと踏んでいる。お前の村の襲撃は鬼舞辻に関わっているとすれば、竈門同様に少しでも鬼舞辻への繋がりがあるなら、それを消す理由はない」
「でしょうね。大和の理由だけで、鬼にしたとは到底思えませんから……」

一体、鬼舞辻の何が弟を鬼にするという理由に繋がったのか。こればかりは分からない。けど、わたしがこの先も鬼殺隊を続ける理由が増えたのは間違いなかった。

「生かされた命、しっかりと囮としますよ。どんな理由があれ、わたしは鬼舞辻を許さない」

 あの場で鬼舞辻に会わなければ、大和は鬼にならなかったかもしれない。元々の原因はわたしの両親にあったとしても、話し合えば分かりあえた可能性がある。だからこそ、全てを最悪の咆哮へと導いたあの鬼を、許すわけにはいかない。
 この復讐劇はまだ終わらないのだ……―



END
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