鬼となったものの末路

 鋭い痛みが身体を襲う。稲妻が入った日輪刀は善逸くんのもので、深々とわたしの脇を貫いていた。意識が戻った瞬間に彼の泣きそうな顔が見えた。どうしてこの時に目を覚ましちゃったのかな、君は……。忘れていてくれると思ったのに。あとでちゃんと謝らなきゃ。わたしは日輪刀を握りしめて、うっすらと瞳を開く。目の前には憎しみにとらわれた弟の姿。
―わたしが、やらなきゃ。
ほんの一瞬。だけどこの一瞬を見逃すわけにはいかなかった。仲間に斬られて死に掛けているわたしが、自分に刃を振るうなんてこの子は思わなかったのだろう。でも、ごめんね。

「……あね、うえ……?」
「油断、したね……? もう、わたしが戦えないって。でもね、死ぬ気になれば出来るんだよ、こういうことも……」

 痛いけど、すっごく痛いけど、みんなが受けた傷と比べたらなんてことない。弟の頸がゴトンと地面に落ちるのを見て、わたしは全集中で患部を止血してずるりと彼の頭に近付いた。未だに頸が落とされたことに混乱しているのか、赤い瞳をわたしへと向けてくる。

「……姉上、は……、僕が悪いと思うのですか……。だから、僕を殺すのですか?」
「……、大和の気持ちを考えずに里子に出そうとした両親にも勿論否はあるよ。でも、どれだけの理由があったとしても……人を殺めた事実は消せないし、やっぱり許せない」

 最初は嘘だと信じたかった。でも、彼に殺された女の子がたくさんいるのは事実だ。これ以上の被害を出さないために、わたしのような想いをするような人を作らない為に、わたしは鬼殺隊に入ったのだから。
 わたしは弟の頭を持ち上げると、そっと膝に置いた。乱れた髪を優しく撫でていると、それが徐々に音を立てて崩れていく。

「僕は、姉上が好きだったんです。好きだから、この気持ちを止められなかった…」
「うん……」
「でも、あんたは……好きな人を悲しませちゃいけないって言った……」

 ふと弟の視線がいつの間にかわたしの後ろに立つ善逸くんへと向けられていた。遅れて伊之助くんや炭治郎、禰豆子ちゃんも駆け寄ってくる。だけど、大和は善逸くんにだけその目を向けていた。

「ね、あんたなら、姉上を守れる……? この人が泣かないように守ってくれる?」
「守るよ。俺は鈴ちゃんを泣かせたりしないし、泣かすやつはぶっ飛ばす」
「守ってよね……? この人、本当は寂しがり屋の泣き虫なんだから……」

 はっきりと言う善逸くんの言葉に、弟は満足げに笑ってわたしの事をまるで自分の事のように口にした。崩れていく顔はもう殆ど残っていない。

「姉上、一つだけ……。僕を鬼にした鬼は…まだ生きてるよ」
「大和……?」
「その鬼の名前は、鬼舞……――」

 ふわりと風が吹く。それと同時に膝から重みが無くなる。風に流されるように、灰となった弟の身体はもうその場には残っていなかった。

けど……

「鬼舞辻……?」

 まさかと思いたい。どうしてここに鬼舞辻が出てくるのか。鬼の原点とも言われた鬼舞辻と自分の村に繋がりがあったなんて信じたくない。最後に言い残した弟の言葉は、その場に残ったわたし達に震撼を与えた。




 

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