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それからというもの、どうも名前ちゃんに意識しまくって仕方がない。一挙一動気になってしまう。
誰かと話してると嫉妬したりする。(ほら、山本からまたカフェに誘われた。)
「あの、須貝さん?」
「え、あ、あぁ、どうした!」
ソファーに座ってスマホを弄ってると、さっきまで山本と会話してたはずの名前ちゃんに話しかけられた。
「帰りに行きたいところあるんですけど、付き合ってくれませんか?」
「もちろん!どこにでもついて行くわ!」
「約束ですよ」
ふにゃあって笑う名前ちゃん。(少し頬が赤かったのは風邪だろうか。心配だ。)
「苗字さん、ちょっといい?」
「あ、はい。今行きます」
派手髪に呼ばれ去って行ってしまった。
名残惜しい気持ちだ。
名前ちゃんのことを意識してからなんだか変だ。AILEの時からガチ恋だったが、脱退してから特に好きで好きでしょうがない。
QuizKnockにいる名前ちゃんはとにかく真面目だ。記事を書いてるときはずっとパソコンとにらめっこ。(良い記事書くんだよな。)
普段謙虚なのに、たまにいたずらっ子みたいな笑顔を見せる。
この間行ったカフェでも感じたが、すごく聞き上手で話し上手。話しててすごく楽しい。(その時はQuizKnockについて語ってしまった。)
アイドルじゃない苗字名前ちゃんを好きになってしまった。
普通の女の子になったんだからアタックすれば良いだろうと思うだろうがそうもいかない。俺はAILEの名前ちゃんのファンだったんだ。
ファンと付き合うのとか普通に考えて論外だろう。名前ちゃんも俺の事そんな風に考えているはずがない。
良くて友達止まりだろう。
だから俺は告白できないでいる。
かと言って他の誰かと付き合うところなんて考えられない。
だから、今日誘われてすげぇ嬉しかった。
心開いてるってことだよな?
「須貝さん、お仕事どうですか?」
「お、ちょうど終わったとこ」
パソコンを鞄にしまい、ソファーから立ち上がる。また伊沢が「2人でどこ行くんですか!俺も行きたい!」と言うもんだから、丁重に断ろうとしたら、
「ダメです!今日は須貝さんと2人で行きたい所があるんです!」
名前ちゃんが断っていた。
「今度遊ぼうね」なんて言う伊沢に「大人しく仕事してろ!」と一喝しておいた。
オフィスを出て横に並んで歩く。
やっぱり緊張するわけですよ。(しかも距離が近い。手を握ってしまいそうだ。)
見慣れた街並みを歩くと、見覚えのある広場に出た。
「ここ…」
「そう、駿貴君に拾われたとこ」
今日は晴れている。雲なんて1つもない。夕陽が沈んで街灯が広場を照らしている。
だからなのか、前来た時と全然違うように見えた。
「駿貴君、私、ね、」
名前ちゃんは立ち止まり、俺の袖を掴む。
まさか、そんなはずないんだ。それは有り得ないことなんだ。
「私、ずっと前から駿貴君が、」
俺の顔を覗くように、顔を見上げる。
あぁ、期待してしまう。心臓がバクバクして苦しい。
「好き、です」
俺は耐えきれず、細い体を抱き締めた。