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伊沢の誘いから1週間が経った。
名前ちゃんはどうやらみんなと馴染めてるようで安心した。
アイドルの時のようなおバカなキャラは捨て、精一杯自分の知識を活かして記事を書いてる。
ただ、ちょっとだけやっぱりモヤッとすることがある。
「名前ちゃーん!今日甘いもの食べに行こうよ!」
「あ、俺も行きたい。近くに新しくカフェできたんだけど行かない?」
山本とこうちゃんが名前ちゃんを誘う。
いや、いいのよ?そりゃ仲良ければそれに越したことないし。
仲睦まじいことはいいこと。うんうん、って納得できるか!
「だーめ!名前ちゃんは俺とお茶するの!」
「え、しゅんきく…須貝さん」
ここに来てから名前ちゃんは俺の事を須貝さんと呼ぶようになった。距離を置かれたようで悲しい。
「えー!須貝さんだけずるい!」なんて山本からのクレームは放置だ放置!
「俺、こう見えても勇気出して誘ったわけよ。帰りに一緒に行ってくれる?」
「…!もちろんです!」
耳元でこっそり聞くと快くOKを貰えた。
2人で会うのは初めてだ。妙に緊張する。
しかし、よそよそしいな…。会いに行ってた時と比べると、さらによそよそしさを感じる。
その後は淡々と仕事をこなし(無理やり集中させた。)、終業の時間になった。
時間ぴったりにパソコンを閉じた。
「名前ちゃん、どんな感じ?」
「あ、はい。キリがいいのでもう上がれます」
「えー、何、2人でどこか行くの?俺も行きたい」と伊沢が言うが、「まだ仕事溜まってるだろ!」と丁重にお断りした。
事務所を出て2人で歩く。こうやって歩くのは、あの雨の日以来だ。
カフェに入り、名前ちゃんはアイスカフェラテ、俺はアイスコーヒーを頼んだ。
「駿貴君」
不意に名前を呼ばれた。この呼び方は久しぶりで、胸がぎゅっと締め付けられた。
「あの日、私を拾ってくれてありがとう」
あぁ、この笑顔だ。ふにゃあってしたこの笑顔が俺は好きなんだ。
また、君に恋をした。