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この子はずっと演技してたんだ。東大に入れるくらい賢いのに、万里の長城をロッキー山脈と回答したり、わざと勉強苦手なフリをしてたんだ。
ただ、騙されたとは思えなかった。むしろ東大生ということに親近感を持ってしまう。
東大生でアイドルなんて、普段相当な努力をしてるんだな。
「……そう、です。苗字名前です。東大に通ってるのも間違いない、です」
「万里の長城をロッキー山脈って言ってたのは演技なんだね?」
名前ちゃんはこくりと頷く。
こうちゃんが「どんな間違いなんだよ…」とつっこんでるが、それどころではない。
「なんでAILE辞めちゃったの?」
「それは…」
「俺、何でも受け入れられる自信あるわけよ」
少しの沈黙。
しかしそれは束の間。
「……メジャーデビューしないかって、プロデューサーに言われたんです。それで、センターにしてやるって。でもその条件が、自分と寝ること、って言われたんです」
驚愕した。
漫画でしか読んだことの無い内容で。
現実で起こるのか、そんなこと。
「それで、怖くなって逃げたってわけね」
「はい。怖すぎて、その、男性の大事なところを蹴って、逃げました」
「強いな…」と呟く川上の顔を横目で見ると、自分がされた訳では無いのに痛そうな顔をしていた。(むしろみんなしていた。)
「こういうことを言うのもアレなんですが、大体の子は枕営業してたんです」
「名前ちゃんはしてなかったんだね」
「お恥ずかしながら勉強以外取り柄がなくて…。男性とお付き合いしたこともないのにそんなことできる訳もなくですね」
顔を赤らめながら、髪を耳にかける。
この子はなんて清いんだ。
「センターになったことなかったので、やってみたかったんですけど、諦めました。AILEも辞めてしまったので」
目に涙を浮かべる。
守ってやりたい。
きっと名前ちゃんにとって、俺はただのファンの1人なんだ。
それでもこの子を守りたい。
そんな時、伊沢が言い放った。
「じゃあさ、ここでバイトしない?」
彼女は戸惑いながらも頷いた。