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土砂降りの雨の中、俺は傘を差し、歩き続けた。
向かうところは、あの会場だ。

名前ちゃんが辞めるなんて信じられるかよ。
あんなに人気があったのに。
絶対に何かあったはず。

急ぎ足で、買ったばかりの靴も濡れてぐちゃぐちゃになりながら向かうと、妙な違和感を感じた。

通り道の広場のベンチに座ってる女の子がいる。
傘もささずに。

そんな子を放って置ける訳なくて。
傘だけでも渡そう。俺は濡れたって構わない。


「ねえ!良かったらこれ使って!」


俯いてた女の子が顔をあげる。


「……駿貴君?」


雷が落ちたような気がした。

間違いない。名前ちゃんだ。今まさに会いに行こうとした女の子だ。


「なんでこんなとこに…!風邪引くよ!」


名前ちゃんは再び俯く。
聞きたいことは沢山ある。けど、今はここから避難させることが先決だ。
とりあえずオフィスに連れて行こう。
そう思い、名前ちゃんを立たせ、手を握り歩きはじめた。
断ることもせず、素直についてきてくれたことに安堵した。


「須貝さん!?どうしたんですか!」

「お、山本丁度いいところに。タオル2枚持ってきてくれ」


「それはそうですけど、その子…」

「事情は後で話すよ」


オフィスに入ると山本が出迎えてくれた。
タオルを持って来させ、1枚を名前ちゃんに渡した。
着替えどうするかな、濡れたままなんて風邪ひいてしまうし。
それに服が濡れて下着の形がはっきり分かってしまう。(平常心平常心…。)


「あれ、須貝さん?って、え!?」

「伊沢…ごめん、この子保護したいんだけど良い、よな?」

「この状況見て断れないでしょ。俺の着替え使ってください」


洗面室に名前ちゃんを誘導して、伊沢の着替えを渡す。
伊沢の着替えってとこがなんだかモヤッとするが、今は文句を言ってる場合ではない。

着替えを待ってる間に川上と福良さんとこうちゃんが、撮影部屋から戻ってきた。


「なんか騒がしくないですか」

「え、ちょ、なんで須貝さんずぶ濡れなんですか!」

「状況説明してくれる?」


俺の推しの名前ちゃんがAILE脱退したこと、会いに行こうとしたら名前ちゃんがずぶ濡れでベンチに座ってたから連れてきたこと全て話した。


「さすがに外に放置なんて出来なかったわけよ」


そう言うと、みんな「まぁ、確かに…」というような反応をした。


「あ、あの!」


洗面室から伊沢のTシャツとハーフパンツを着た名前ちゃんが出てきた。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」


深く腰を折り、はっきりとした声で謝罪する。


「名前ちゃん、顔をあげて。謝罪なんていらないよ」

「でも…!」

「俺で良ければ話聞くよ。なんて言ったってナイスガイだから」


名前ちゃんはホッとした表情になった。


「……もしかして、なんやけど」


川上が何かを思い出したかのように名前ちゃんに話しかける。


「名前さんって、苗字さん?」


普通にしてても大きい目が見開かれる。
え、何、なんで川上は名前ちゃんのこと知ってるの。
苗字は非公表のはずだ。知り合いか?でも、それならもっと早くに言ってるはずだ。


「いや、須貝さんからチェキ見せてもらった時は気づかなかったんです。でも、3年で凄い可愛い子いるって噂になってるんですよ」

「あ、俺も聞いたことあります。本物見た事なかったけど」


川上とこうちゃんが知っているということは、間違いない。

この子は東大生だ。





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