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「須貝さん、この記事なんですけど……って何見てるんですか!」


オフィスのソファーに座ってると、山本が話しかけてきた。


「この子めっちゃ可愛くね?」

「あ、本当だ。かわい〜ってそうじゃなくて!記事ですよ!」


膝にパソコンは置いてるものの視線は昨日撮ったチェキに向けていた。
ぷりぷりと怒ってる山本の話を聞いてもなかなか頭に入ってこない。
名前ちゃんのことしか考えられない。


「もー!話聞いてくださいよ!」


とうとう半泣きになってしまった。
さすがに集中しなければとチェキを伏せた。

その後はきちんと仕事をこなした。
仕事に集中してないとずっと名前ちゃんのこと考えてしまう。
俺、声優オタクのはずなんだけどな。
そういえば今日も公演するって言ってたな。昨日聞いたら、今日もいるって言ってたから会いに行こう。


「須貝さんがニヤついてて怖いんですけど、どうしたんですか」

「なんかよく分かんねえけど、地下アイドルにハマったらしい」


派手髪とCEOがそう話してるのが聞こえた。
そうこうしているうちに、定時になった。仕事もなんやかんやで一段落したため、パソコンを閉じた。


「お先!」


そう言って立ち去ると、こうちゃんが「早っ!」と言ったのが聞こえた。

現在の時刻は18時15分。
公演は19時から。急いで向かえば間に合う時間だ。

歩きながら、今日は何話せるかな、とか、俺の事覚えてるかなとか考えた会場についた。
中に入るとすでにファンが大勢いる。
やっぱり凄い人気だ。
入口で入場料を払い(今日は有料か、まぁ問題ない)、出来るだけ後ろの方にいる。(ファン達が前にいるから、できるだけ離れたいんだよな。)

明かりが消え、暗くなる。スポットライトがステージを照らすとステージにAILEのメンバーが現れる。
そして曲が始まる。
どうやら昨日とは違う選曲、違う衣装のようだ。
目当ての名前はイメージカラーが赤なのか、また赤い衣装を着ている。(今日は髪下ろしてるんだなぁ。)

一通り曲が終わり、握手会とチェキ会が始まった。
名前ちゃんの列はやはり長い。
次の動画の企画はどうしようかなんて考えてると、俺の順番が来た。


「駿貴君!今日も来てくれたんだね!」

「はい!今日も良かったです!」

「敬語使わないでよー、私の方が多分年下だし」


ほわほわとした笑顔で手を両手で握られる。
くっそ、可愛い。


「駿貴君って、なんだかみんなと違うね」

「え」


どういう意味か分からなくて、ぽかんとしてたら時間が来てしまった。

その場を離れ、暫し周りを傍観する。

名前ちゃんのファンは、その、言い方すげえ悪いけどデュフフみたいなことを言いそうなのが多い。
他のメンバーはサラリーマンとか大学生とかそういうファンばっかりなのに。
そんな感じなのに、絶えずほわほわってした笑顔で対応するなんて天使かよ。あ、もうこりゃ天使だな。天使と書いてエンジェルだな。

チェキの順番待ちもすごい。もう誰も並んでない子とかもいるのに。
しかし1番人気と言われてる子はもっと凄かった。2列ってなんだよ。どういう順番なんだよ、みたいな。
俺がいつか1番にさせてやるからな、なんて気持ち悪いことを思ってると順番が来た。


「駿貴君!また会えたー!っていうかずっと後ろにいたの知ってるんだからね」


ふにゃあって笑った顔が可愛いし、何より俺の事気づいてたことがマジ嬉しい。


「もう、もっと前に来てよね」

「いや、それは勘弁!恥ずかしいし、俺、今日で2回目だし」

「関係ないよ!駿貴君のこともっと近くで見たいよ」


これはまずい。
この子俺の事好きなんじゃないかってくらいグイグイ来る。
心無しかチェキを撮る時の距離も他のファンより近い気がする。(いい匂いがした。)
このときめきは初めてだ。声優のイベント行ってもこんなにドキドキしない。

他のファンにも同じ対応かもしれない。
けど、俺は、この子に恋をした。





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