13


それは9月の終わりの土曜日。
名前ちゃんが今日映画に誘ってくれたお陰で、完全に寝不足だ。楽しみにしすぎたか。
どんな映画かは教えてくれなかった。(楽しみにとっておいて!って可愛すぎか。)
そんなこんなで予定の1時間前(現時刻10時!)に、待ち合わせ場所の映画館の前にいる。
色んな映画やってるんだなーと、並んでるポスターを見て時間を潰す。


「あ、これ…」


「ダイスキ」というR15の恋愛映画。CMを見ただけでも分かる濃厚なラブストーリー。純愛ものなのにエロティックな表現で評価が高い。
名前ちゃんにはまだ早いだろうな。きっと今日はアニメの映画だろう。そう思いながら、その恋愛映画の隣のアニメの映画のポスターを見た。


「えっ…、駿貴君…?」


背後から声をかけられ振り向くと名前ちゃんの姿が。(服可愛い…!!!髪型も巻いてるし、最強すぎ。)


「え、まだ1時間前じゃん。早くね?」

「そういう駿貴君こそ早いよ」


暫く視線を交わした後、お互い笑い合った。


「楽しみすぎて早く来ちゃったんだ。ね、あそこにカフェがあるから、そこで時間まで少し待たない?」

「良い考え!行こう!」


映画館のすぐ近くにあるカフェに入る。アンティーク雑貨で揃えられて綺麗。
黒いエプロンをした男の店員に、お好きな席どうぞ、と言われ、1人がけソファがテーブルを挟んで2つある席に向かう。
ソファに座ると、柔らかすぎて体が思ったより沈んだ。座り心地が良い。
店員に「ご注文はいかがなさいますか?」と聞かれた。


「俺はアイスコーヒー、ブラックで。名前ちゃんは?」

「白玉ぜんざいミルクのホットでお願いします」


え、何それ。店員は「少々お待ちください」と言って去ってしまった。


「ふふっ、ここの白玉ぜんざいミルク美味しいんだ」


ふにゃあと笑う名前ちゃん。


「来たことあるんだな」

「うん、映画見る時は必ずここ寄るの。雰囲気良いでしょ?いつも1人だから駿貴君いてくれて嬉しい」

「名前ちゃんの須貝なんだから、いつでも一緒にいるよ」


2人で笑い合う。幸せだ。
他愛もない雑談をしていると時間になったので店を出ることにした。
勿論伝票を俺が持とうと思ったのだが、既に名前ちゃんが持っていた。


「ちょちょ、俺が払うから」

「え?なんで?」

「そういうのは男が払うものなの!」


なんで?って本気で聞いてる辺り、本当に経験がないのが分かる。


「でも…」

「お兄さんに甘えなさい。ていうか普段からもっと甘えなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないでしょ?」

「……ありがとう」


照れくさそうに言う名前ちゃんの頭を軽く撫で、伝票を奪い、お会計する。
「1180円です」と言った店員にぴったりお金を渡し、レシートを貰う。
店から出て、手を繋ぎ映画館へ向かう。


「そういえば何見るかそろそろ教えてな」

「う、うーん…」

「でも大体予想ついてるよ。あのアニメのヤツだろ?」


先程見ていたアニメのポスターを指差す。
すると、名前ちゃんがの顔が真っ赤になった。
やっぱりなぁ、なんて思ってると、名前ちゃんがその横のポスターを指差した。


「え、どんな映画か知ってるの?」

「ち、ちがうの。友達がそろそろ大人の恋愛をしなさいって、私はそんなつもりなくて、でもそんなの駿貴君見たくないよね…」


しどろもどろする名前ちゃんに、「俺も気になってたんだ。見に行こ」と言うと安心したように、笑顔で「うん!」と言ってくれた。

内心ドキドキしながら映画館に入り、13シアターの指定席に座る。(1番後ろの真ん中の席だ。)
あまりお客さんはいない。この列には俺らだけしかいないようだ。


「なんで1番後ろ…?」


名前ちゃんがそう疑問に思うのは当然だ。
真ん中の列の方が良いに決まっている。
だが、そんな疑問もすぐに晴れた。

冒頭からキスシーンの多いその映画は、名前ちゃんに触れたい欲が高まる。
隣を見ると真剣に映像を見る名前ちゃん。
唇が気になる。俺はゴクリと喉を鳴らした。

あぁ、そういうことか。ナイス友達。
俺は体を起こし、名前ちゃんの顔に触れた。
驚いた顔でこちらを振り向く名前ちゃんにキスをした。
長く、味わう様に。

後ろの席なのは誰にも邪魔されないためだ。
ゆっくりと唇を離すと、名前ちゃんの唇が「もっとして」と動いた。
そんなこと言われて我慢出来るわけないだろ?
結局映画が終わるまで唇を重ねてた。


明るくなった映画館でしばらく顔を合わせることもなく座っていた。
俺も顔が真っ赤な自覚はあるが、名前ちゃんは耳や首元まで真っ赤だ。


「あの、ごめん。我慢出来なかった」

「駿貴君が悪いわけじゃないよ。ただ…」

「ただ?」


名前ちゃんが涙目で「自分がこんなにいやらしいなんて思わなかった」とまた俺を煽るような事を言ってきた。


「幻滅した?」

「する訳ないだろ。それに我慢できなかったのは俺だよ?」


それにこの映画の内容も悪い。(ほとんど見てないけど。)


「あの、駿貴君」

「ん?」

「駿貴君は、自分の推しの部屋とか見たくない?」

「えっ」


俺は決して鈍い方ではない。
だから、この発言がどういう意味か知ってる。

どうする、俺。
俺の事を見つめてくる名前ちゃんの目から離せなかった。


prev next

back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -