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あの告白から1週間が経った。
名前ちゃんは相変わらず真剣に仕事をしている。
帰りは必ず駅まで送っていくし、送ってる最中の会話は本当に楽しい。
ただ、それだけなのだ。それだけ。(手は繋ぐ。)
俺だって健全な成人男性なわけで、キスとかしたい。
しかし、名前ちゃんにとっては初めての彼氏な訳だから、ゆっくり歩み寄ってる最中なのだ。
もどかしい時間だけ過ぎていく。
「須貝さん見すぎです」
とうとう派手髪に言われてしまった。
福良さんに呼ばれ撮影部屋に入る。
大人だから集中すべきところは集中できるのだ。
撮影後、部屋のドアが開いたと思えば名前ちゃんがコンビニの袋を持って入ってきた。
「お疲れ様です。差し入れです」
「ありがとう、名前ちゃん!」
最初に飲み物を渡してくれたことに優越感。
そういう些細なことが嬉しいのだ。
みんなに渡し終えると部屋から出ていってしまった。
「須貝さん、名前ちゃんに告白したんですか?」
山本が自身のスマホに視線をやりながら、俺に話しかける。
「した!付き合ってる!」
「えー、僕もちょっと狙ってたのにな」
なんてことを言うんだこいつは。
可愛い顔をしているが危険人物だ。
「でも名前ちゃん、初めて付き合う人が須貝さんなんですよね。ということは、まだ、」
「だああああ!お前な!そういうこと言うと視聴者に嫌われるぞ!」
「あはは、冗談ですよっ」
小悪魔とはこういうことを言うんだな。
天使な名前ちゃんに近づくなと言っておこう。
やがて時間が過ぎて、定時になる。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
「おっと、名前ちゃん帰るの?送るよ」
俺はまだ抱えている仕事があるので残業決定なのだが、名前ちゃんを最寄りの駅まで送っていきたい。
「え、良いんですか?まだ仕事残ってるんじゃ…」
「何があるか分かんないでしょ。俺が不安なの」
「じゃあ、お願いします」
ふにゃあって笑う名前ちゃんと外に出るためにパーカーを羽織る。
「もう涼しくなってきたね」
外を歩きながら会話をする。(手、繋ぎたい。)
「そうだね、暖かい格好してな。いつもの格好は薄着すぎだから」
「そうかなー?あ、そういえばね」
ごそごそと名前ちゃんは自分のバッグから何かを取り出した。
「大学の友達から映画のチケット貰ったの。今週末行きたいな」
「え!!!」
まさか名前ちゃんからデートに誘われるとは思ってなかった。先を越されたことに少し落ち込んだ。
「い、行きたくない?」
「行きたい、行きたいけど、はぁ〜先越された」
「え?」
「俺からデートに誘おうと思ってたのに、何もプラン考えてなかったから、まじカッコ悪い…」
本気で落ち込んでいると、名前ちゃんから手を握ってくれた。(嬉しすぎる。)
「駿貴君忙しいもん。仕方ないよ。その代わり、今週末は絶対に映画見に行こうね」
「……うん!」
今週末のデートのプランを至急考えないといけないな。
「じゃあ、また連絡するね」
「おう、終わったら連絡するな」
気付けば駅前まで来てしまった。時間とは早く過ぎるものだ。
「……名前ちゃん?」
なかなか駅の中に入らない名前ちゃんは、何やら、あー、とか、うーとか呻いてる。
「駿貴君」
名前を呼ばれ、両肩を掴まれる。思わず屈んでしまったその瞬間、チュッと、唇に柔らかいものが触れた。
「え、名前ちゃん、え」
キス、されたのだ。名前ちゃんから。
「私は、いつだって駿貴君とこういうことしたいと思ってるよ」
「また明日ね!」と駅に向かって走り去っていってしまった。
「ちょっと…不意打ちすぎ…」
俺はその場でしゃがみ、髪の毛をくしゃりとかきあげた。
天使だと思っていた女の子は小悪魔だったのか。