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俺は耳を疑った。
でも確かに俺の家に行きたいって言っていた。
名前ちゃんは確実に酔っている。だから、そんな状態の名前ちゃんを連れ込むだなんてできるはずないし、それに家にはどうしても見られてはいけないものが飾ってある。
「名前ちゃん、帰ろう」
ビール1杯飲むだけとはお店に悪いがそんなのは今は良い。
「帰る?駿貴君のお家に?」
「だぁぁあ!違う!自分の家!俺送るから!」
「私が行っちゃ迷惑だよね、そうだよね」
話が通じない。困った。今まで酔っ払ったこうちゃんを介抱したことなら何度もあるが、これは質が悪すぎる。
「名前ちゃん、俺ね健全なお兄さんなのよ。だから家に連れ込んだら何するか分からないよ。だから、また今度ね」
名前ちゃんの顔を見ると今まで見た事ないくらい真っ赤になっていた。
「あの、酔い冷めたの。ごめんなさい。びっくりしたよね」
「ううん、酔い冷めたなら良かった。でも俺以外と飲むのは禁止な!」
「う、うん」
「じゃあ、仕切り直しな!ご飯食べようぜ。何がおすすめ?」
少し悩んだ名前ちゃんは、「塩焼きそばとだし巻き玉子!」と言ったので注文し、物が届くと、めっちゃ名前ちゃんがめっちゃ笑顔になった。
そういえば食べるのが好きだったな。
「たんとお食べ!」
「うん!いただきます!」
え、もぐもぐと食べる名前ちゃんめっちゃ可愛いんだけど…。
ほっぺに詰め込んでて小動物みたい。
ジーッと見つめてたら、名前ちゃんがムッとした顔をした。
「駿貴君も食べて!本当に美味しいんだから!」
怒られてしまった。怒っても可愛いとか事案だわ。
確かに美味しそうな塩焼きそばを啜ると、海鮮の香りが口の中に広がる。
具材のエビもぷりぷりだ。めっちゃ美味しい。
「ね?美味しいでしょ?」
「めっちゃ美味しいわ!ここには1人で?」
「大学の友達と来るの」
そういえば名前ちゃんは、AILEのメンバーとはあんまり仲が良くない。
名前ちゃんが一方的に壁を作ってる感はある。
「……今、AILEの子と来ないのかなって思ったでしょ」
「イヤ、オモッテナイデス」
「カタコト!AILEの子と行く時は漏れなく男の人がついてくるから、ご飯行かなくなっちゃった」
デビューしたてのころはよく行ってたんだけど、と悲しそうな表情をした。
男の人に免疫ない名前ちゃんには辛かっただろう。考えすぎかもしれないが、襲われる可能性だってある。
でも良い子だから言えなかったんだ。
俺は名前ちゃんの頭を撫でた。
「これから俺と楽しい思い出作ろうよ。沢山デートするし、勉強だって見てあげるよ。特に物理」
「本当?私ね、行きたいとこいっぱいある。勉強しかして来なかったから行ったことないとこ沢山あるんだ。物理は苦手なのでお願いします」
俺の手に、自身の手を重ねてふにゃあって笑う名前ちゃん。
この笑顔を守りたいと思ったんだ。