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You side


駿貴君とキスをした。
恋愛経験皆無の私にとって、それは大変なことなのに、もっとしたいって思ってしまった。

駿貴君の唇が離れ、しばらく見つめ合う。


「名前ちゃんも顔真っ赤」


そう、にこにこと笑みを浮かべる駿貴君も顔が真っ赤だ。



「駿貴君、あの、」

ぐううぅぅぅ…。

もっとしたい、そう言おうとしたのに、私のお腹はタイミング悪く鳴ってしまった。


「ははっ、そっか、ご飯まだだったな。せっかくだし何か食いに行かね?」


笑われてしまった。恥ずかしい…!
確かに私はお腹が空いていた。でも、今お腹がなるタイミングじゃないでしょー!
キッと、駿貴君を睨みつける。


「じゃあ、私が行きたいお店に付き合って!」

「(上目遣い…!)もちろん!」


駿貴君は自身の手を私に差し出す。


「……?」

「いや、ほら、手、繋ぐの嫌じゃなければ…」

「!繋ぐ!」


ぎゅって、手を繋ぎ、暗くなった道を歩く。
手、繋いだのもあの雨の日依頼。でもあの時とは状況が違うんだ。
緊張する。手汗大丈夫かな、なんて考えてしまう。


「ちなみに、行きたいとこってどこ?」


駿貴君は随分余裕そうだ。こっちはこんなに緊張してるのに。
そりゃそうだよね。こんなにかっこいいんだもん。経験なんてきっと豊富なんだろうなぁ。


「はぁ…。えっとね、この近くの小料理屋さん」

「(溜息!?)うん、いいんだけど、名前ちゃんどうしたの?」

「なんでもないよー、はぁ…」

「(また溜息!)え、やっぱり何かあるでしょ」


お兄さんに何でも話してよ、なんて言う彼の手をさらにぎゅってした。
気にしてくれてるとことか本当に好きだと思う私は構ってちゃんなんだ。

お店に到着し、テーブル席に通されると、生ビール2つを頼む。
席に座ると駿貴君が心配そうに私を見つめてくる。


「ねぇ、本当にどうしたの?俺にも言えないの?」

「いや、それは…」

「前にも言ったけど、俺は名前ちゃんならなんでも受け入れられる自信あるのよ」

「ううう……」


い、言えない。過去の女に嫉妬しただなんて、そんなこと。
案外心狭いのな、というセリフが駿貴君ボイスで聞こえた気がする。


「言わないと、今日、俺の家に連れ込むよ」

「い、言う!」


それは流石に避けなければ。
正直凄く行きたいけど、恥ずかしさが勝った。


「……あのね、駿貴君が過去に付き合ってた人に嫉妬した」

「えっ」

「駿貴君、かっこいいし優しいし頭いいし運動できるから、いっぱいもてたんだろうなって思ったの!心狭いの!ごめんなさい!」


頭を下げて謝る。駿貴君は何も言わない。やはり嫌がられたんだ。泣きそうになりながら頭を上げると、手で顔を隠してるのに耳が真っ赤になってるのがバレバレ。


「お待たせしましたー!ビール2つでーす!」


店員さんがビールを持ってきてくれた。私は「ありがとうございます」と言って受け取った。
駿貴君は未だ顔を隠したまま。


「駿貴君…?」

「どーしよ。そんなに褒められたことない。恥ずかしい」


「え…」

「とりあえず飲も!かんぱーい!」


ジョッキをカツンと当て、一気に飲み干す。
私は酒が強いほうだ。いつも糖質を気にしてワインを飲むのだが、アイドルを辞めたから気にしない。
ビールはやっぱり喉越し命。
なんて、思ってたけど、普段飲んでないビールで一気に酔いが回ってきた。
ふわふわと気持ちよくなってくる。今ならなんでも言えそう。だから、言ってみたの。


「駿貴君のお家行きたい」






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