だって夢みたいだ


ライター設定。


とある日、私は聞いてしまったんだ。
別室にいる山本君と須貝さんの会話を。
私はドアの前で聞いていた。


「好き、めっちゃ好き」

「えー、須貝さんがそんなに好きとか言うの信じられないです」

「いーや、こればっかりはマジなの。しかも両想いっぽい」

「本当ですか!?」


須貝さんに密かに思いを寄せている私は、その会話を盗み聞きしてしまった。そして玉砕した。
須貝さんの好きな子、どんな子だろう。
きっとアイドルみたいな元気な子なんだろうな。
人見知りで、最近ようやく山本君と目を見て話せるようになったけど、須貝さんとはまだ上手く会話ができない。


「どんなところが好きなんですか?」

「頑張ってるところ!」

「え、なんですかそれ」


もう聞くのを止めよう。
そう思って立ち去ろうとしたら、須貝さんが、


「頑張って、おはようございます、って言いたそうにしてるところに、俺から話しかけるとすげー喜ぶんだよな。これで俺のこと好きじゃなかったら泣くわ」

「僕には普通に挨拶してくれますよ」

「うーわ、羨ましい。もう告白しようかな」

「え、行動力」

「ん、行ってくる」


部屋のドアが急に開いた。
ドアの前にいた私は、慌ててその場を離れようとしたが、手首掴まれた。
思わず振り向くと、須貝さんがいた。


「話、聞いてたでしょ」

「え、あ、の、秘密にしておきますので、ごめんなさい」

「えっ、話聞いてたのに理解してなかったの?」

「……?」


はーーーっ、と大きめの溜息を吐いた須貝さんは、頬を赤らめながら、「じゃあちゃんと聞けよ」と言った。


「いつも頑張って俺に話しかけようとする名前ちゃんが好き。すぐに赤くなる名前ちゃんが好き」


嘘だ。だって、そんなの有り得ない。
私は明るくもないし、人見知りをこじらせている。


「その泣きそうな顔も、結構好き」

「す、がいさ…」

「俺と付き合わね?名前ちゃんも俺の事相当好きでしょ?」


ここで言わないといつ言うんだ。
須貝さんの目を見ながら、


「好き」


その一言だけしか出なかったけど、須貝さんが頭を優しく撫でてくれたから伝わったんだと思う。

「大人の恋愛教えてやるから覚悟しておけよな」なんて言われたら、私は「はい」と返事するしかないのだ。




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