小説 | ナノ


永久 

伊八、伊八。
貴方は決して一人ではありません。
たとえそれが、貴方の最期の時であろうとも─



私はドイツの潜水艦、Uボートです。
数年前、遠い友達の伊八が、はるばる私のところへ来てくれました。
連合国の襲撃をも回避して来てくれた彼は英雄です。
そんな彼とも仲良くなり、また数年が過ぎました。
私はある任務のために、日本とドイツ間を潜っていたのですが、途中連合国艦隊に見つかり、海底へ沈められてしまいました。
とても残念です。もう彼と日本の温泉巡りをしたり、沢山の物語をもお話しすることもできないのですから...。
しかし、未だ生きていた時と同様自らの意志は確かにあるのです。
物体に対する抵抗は何ら感じられないのですが、その場面を見たり、移動することは生きている時より容易にこなせます。
そこで私は、大好きな伊八を見守ることにしました。


そうして私が沈んでから1ヶ月と数十日が経ったある日のこと、任務に当たっていた伊八が不運にも米英国の船に見つかってしまいました。
敵鑑は容赦なく魚雷を伊八に向けて発射しました。
なんとかして止めようとしても、私には双方物理的な力が働かないのでそれを見送ることしかできません。
私は胸がはちきれそうな思いでいっぱいでした。


『伊八!だめです!2隻と闘うなんて、死んでしまう!』


その攻撃を相手からの挑戦状として受け取った彼は、すぐさま戦闘態勢に入りました。
私は必死になって届きもしない声で何度も精一杯叫びましたが、そうこうしている間にもう一発、今度は魚雷が彼のわき腹に命中し、大きな爆発音が海に響き渡りました。
...私はこの能力を心の底から憎みました。 
無力なのに、まだこの世界に存在しているなんて...
苦しむ伊八を見たその時、私はようやく自分の存在を不当であると認識したのです。
いっそのことなら視界も、聴覚も、全てを失い海の底で眠っていればよかったのに。
私の中の、見守る。それは愛する人の死を心待ちにするかのような、醜い行為でしかなかったのです。


うめき声を上げて傾き、崩れていく伊八。
息ができないのでしょうか、伊八は目を見開いて、もがき、喉を両手で押さえています。


「─っ!...U房...!!!」


あぁ、そんな... 
貴方の死に際に、私の名前がその小さな口から出るなんて、誰が想像したことでしょうか...。
どんどん下降線を逝く伊八。深青から黒へと移りゆく海の中に消えていく伊八。
私はそんな伊八を抱き抱えるようにして、海の底へ沈んでいきました。


『伊八、聞こえますか..?やっと、一緒になれました。』


深く、深く。
もう、離れないように─




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