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こたつの中の彼

「お、終わったぁ...」


俺はこたつの上で数センチある分厚い紙をとんとんと束ねてからごろんと大の字に横になった。
これは明日までに済ませるようにと言われた、ここ最近の状況を上層部に伝えるためのいわば報告書のようなもの。
上も上だよ。もっと前から期限出されてたらもっと早くに終わってたっての。
ま、俺もデスクワークは人並みに早いから昨日から哲也したらなんとか終わったけれど。


それにしても、こたつって最高。
ばきばきになった体を柔らかく温めてくれるし、冷えた手も優しく布団が包んでくれる。
そんな快適な環境に、体力も限界に近付いていたせいもあってか俺はすっかり夢の中へと引き込まれていった。



***************************



「よし!これで今日の夕食はそろいました!今日は鍋♪伊八の弱った体をこれで温めて、元気にしてあげましょう! えぇ〜と、鍵、鍵,,」


伊八がぐっすりと寝ている頃、彼と同居しているU房は夕食の買い出しに出ていた。
伊八が仕事を抱えている間、オールマイティなU房が家事から洗濯まですべて行っているのだ。
彼も彼で“伊八の妻ごっこ”を楽しんでいるようだが。


ガチャガチャ....バタン


「ただいま〜」


日も沈み、外もだいぶ暗かったが、部屋はもっと暗かった。
伊八は今日家で仕事をしているとU房に伝えていたため、明かり一つついていない家にU房は疑問を抱いた。


「あれ..?伊八?もしかして外に出たんでしょうか..」


買い物袋を置いて、リビングの電気をつけ、コートを脱ぐ。
すると..。


「...ズーッ。......ズーッ。」


気持ちよさそうにいびきをかきながら、こたつの中でぐっすり寝ている伊八の姿が目に入った。
こたつの上には何やら小さな文字で埋め尽くされた書類が束になって投げ出されている。


「伊八、頑張って仕事してたんですね。」


U房はクスッと笑うと、子どものように無防備に寝ている伊八の傍らに腰を落として、そっと彼の髪をなで、その手を頬、首筋へと沿わす。
伊八はそれでも目を覚ます気配はなく、むしろそれを心地よさそうに顔をうずめた。
U房の胸にそんな彼への愛おしさがこみ上げて、そっと小さく彼の開いた唇にキスをした。


「うぅ〜ん..」
「あ..」


U房がちょうど唇を離すと、彼は口をつむんで小さくうなった。
気づかれた?
そうU房が感じたのも束の間。
彼はもそもそとU房に背を向けると、また気持ちよさそうに寝息を立てた。


「ふふっ、今から鍋、作りますからね。一緒に温まりましょう。」


U房はもう一度、彼の額のはしに小さな音を立ててキスをしてから、エプロンを巻いてキッチンへと向かった。




伊八がそれからすぐにうっすらと目を開けて小さく微笑んだのを知らずに。




end.

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