小説 | ナノ


とある休暇の告白

『そうですねぇ、ここは歴史も古い由緒ある町ですから、やっぱり心が研ぎ澄まされるような─』


某日港近くの旅館で仲間はみんな海水浴に出っぱらっている間、俺は1人畳の部屋に扇風機をつけて窓を全開にし、テレビの前で頬杖をついていた。
3日前、数ヶ月ぶりに海面に上がってきた俺たちはありがたい数日間の休暇を頂いたのだ。
あんなに嫌と言うほど海と過ごしたのに、どうして俺はまた海の近い宿を選んでしまったんだろう。
まぁ、あいつらが楽しいならそれはそれでいいか。


外は文句のなしの清々しい晴天で、耳をすませば遠くで同僚達が騒ぐ声がした。
俺はちらりと窓の外に目を向けたが、そこへ加わろうとは思わなかった。
別に仲間と仲が悪い訳じゃないけど、誘われたとき心の底から楽しいとはきっと思えないと感じた。


ふと、3階の窓から心地いい風が入ってきて、そこに取り付けられていた色あせた風鈴がか細く鳴った。
テレビが別のトークに移る。


『続きましてはこの夏はやりのファッションチェックをしていきますよ〜!』


俺はテレビを消して畳の上に大の字になって寝っ転がった。
すごく気持ちがいい。
いっそこのまま、こうして何も考えずにこの夏を、一生を過ごしていたい。
またちりん、と、風鈴が鳴る。
それと同時にがしゃりと部屋のドアを開ける音がした。
ガサガサとビニール袋がすれる音と一緒に、スリッパに履き替えてこちらに向かってくる音がする。
俺はなんとなく息を止めてみた。


「伊八!よかった、いたんですね。」


やってきたのはU房だった。
なんだ、奴らが忘れ物でも取りに来たのかと。
彼は大の字の俺の隣に座ってビニール袋をあさり、中身の物を俺の頬にあてた。


「......つめたッ!」
「えへへっ。絶対伊八この暑さに萎えてると思って。隣の駄菓子屋で買ってきました!」


俺は身体を起こしてちょっと笑いながら彼の持つ水色の棒アイスを受け取った。
ビニール袋を破って、少し溶けたアイスをかじる。


「伊八はあの人たちと一緒に遊ばない、ですか?」
「んー...うん。」
「すごく楽しそうですが...。」
「俺は、いいお。だって、U房といた方がテラ楽しいし。」
「え?」


その外見とは似つかないほど、可愛くアイスを舐めるU房の目が丸くなった。
愛らしいその姿に思わずいじりたくなる。
俺はアイスをひとかじりして、一歩U房に詰め寄った。


「じゃあ聞くけど、U房はどうしてあいつらと遊んで来ないで俺のためにわざわざアイス買ってきてくれたのw?」


 ...ずるいです。


そう言って頬を膨らませ、俯く狼。
俺は俯いた彼の顎を持って唇を軽く重ねた。
そしてゆっくりと音を立てずに離れ、長いまつげに伏せられていた灰色の瞳がそっとこちらを覗いた。
U房の小さな吐息と一緒に、言葉が紡がれる。


「...でも、きっとそれは、ずるい伊八が好き、だから...だと思います。」


純情すぎる台詞に言葉に詰まった。
時々俺はこんなやつとよくここまでやってきたと思うけど、こんなやつとだから多分ここまでうまくやってこれたんじゃないかなって。
シリアスにも考えてたりする。


「俺も...そう思う。」


でもやっぱりなんて返したらいいか分からなくて、俺は自分でも訳の分からない謎めいたことを言った。
U房はそのまま小さく口を開けて、顔を真っ赤に染めている。
何を言ったらいいのかわからず、戸惑っている様子でもあった。
俺はついにそんな滑稽さに耐えられなくなって、その場で吹き出した。


「えっ、え!?」
「うははwwwいや、やっぱ俺むりぽwww」
「な、なんか私変なこと言いましたか!?」
「いやwwwwやっぱさww」


言葉って使えるけど、引きこもりと外人には難しい技術だなーって。


俺は口角をにんまり上げたままアイスを持つ彼を畳の上にゆっくり押し倒した。
U房は目まぐるしく変わる展開にあたふたしているが、俺は構わない。


「じゃあちゃんと、そのU房の告白のお返ししなくちゃね?」


俺はソーダー風味のアイスを食して、U房に再びキスを落とした。





end.
(言葉が上手に使えない俺は身を持って愛を貴方に捧げようと思う。)

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