光謙 | ナノ
俺は今自宅の自分の部屋で携帯を片手に頭を抱えている。
携帯はメール画面を開いたまま。
送信元には彼氏の財前光の名前があった。


話は今日の午前中にさかのぼる。


俺は同学年のある女子に体育館裏で告白をされた。
とても突然なことで言葉が出ず、彼女は返事はいつでもいいとだけ残してその場を去って行ってしまった。
ここまではまだいい。問題はこの後だ。
ここにたまたまテニス部の後輩がいたらしく、彼が瞬く間に次から次へとテニス部員に口伝えしていったらしい。
そこで財前にもその話が耳に入り、その件に対してのメールがきたというわけだ。
メールの内容は絵文字もなしに今日女から告白されたそうですね、とだけ。
そりゃあいつも淡々としているわけだけれど、今日のは何だかいつも通りに返事をできるような感じではない。
まだ告白をちゃんと断ったわけではないから、ちゃんと断ったと伝えることも出来ないし、断るつもりだと言ってもかえって彼を刺激させてしまうだけのような気がしたから。
.......そうだ!こういうのはどうだろう?
明日体育館裏にまた彼女を呼んで、同時に財前も呼ぶ。
俺たちには見えないようなところで財前に待機してもらい、俺が彼女の告白を断るのを影で聞いてもらう。
実際に俺が彼女を断っている現場を目にしたら、女の子に告白されても財前が好きってこと、ちゃんと伝わるだろうから。
俺、ほんま頭冴えてる!よっしゃ、そしたら....


Re:
明日の昼休みに体育館裏に来てもらってもええ?


よし。と。メールを彼に送信してから、俺は携帯を枕元に置いて成功だけを頭の中で描いて眠りについた。





**************************




翌日の昼休み、俺は彼女のクラスに行き、彼女を呼び出した。


「あの、急に呼び出してごめん。昨日のこと話たいんやけど..」
「あっ..忍足くん、その... ごめん、あたし実はこのあと委員会の方で集まらなくちゃいけないの。またあとでもいいかな?」


血の気がサーッとひいた。その瞬間、俺の完璧な計画が脆くも崩れ去ったのだから。
俺は素っ頓狂な声で、おん、じゃあまた来るわ!とだけ伝えてその場を駆け足で去った。
しまった...昨日彼女にちゃんと確認しておけばよかった。
これじゃあなんの証明もできない...。
しかし、くよくよ悩んでいる時間もない。きっと今頃彼は体育館裏で俺を待ち受けているはずだ。
俺は足早に体育館裏へと向かった。




*****************************




「あ、えぇと。財前。」
「...どうも。」


体育館裏には予想通り、すでに財前がポケットに手を突っ込んで音楽を聴きながら財前待ち伏せていた。
彼はぎろりと睨むような眼でこちらを見てから、何?とそれは手短に尋ねた。
もう正直にちゃんと言おう。変にごまかさず彼に自分の気持ちを証明させるためにも。


「あのな、本当は俺ここに告白してくれた女の子呼び出して、その、断ろうと思ってん。でも、女の子、この時間は別に用があるらしくてな、で、なんか2人きりになってもうた」


はははと何かをごまかすように頭をぽりぽりとかく。
あぁもう、ごまかさないって決めたんに。ちゃんと言わな。


「で、財前にはちゃんとその様子を見届けてもらって、俺の気持ち、財前にちゃんとわかってもらわなって思ってたんやけど。..あはは、ちょっと失敗してもうた。」
「ふぅん、で。俺には謙也さんの気持ち、今のところまだちゃんと伝わってないですけど。」


ギクッ..!
財前の鋭い言葉に口角が吊り上がる。


「せ、せやったっけ..」
「....」


俺はフーッと深呼吸をして、荒れる鼓動を整えようとする。


「財前、好き..」
「....」
「別の誰かに告白されても、やっぱり俺財前が好きって、思った。」


俺は熱くなった顔を少しだけ伏せて、財前に思いのままを告白した。
恥ずかしい。きっと俺、今顔真っ赤になってるんやろな..。
すると、財前がこちらに歩み寄ってきて..


「わっ..」


ぼふっと、胸に温かい感触が伝わってきてから、目前のふんわりと財前の髪の香りが香る。
財前が、俺に抱き着いている━


「俺、その言葉がずっと謙也さんから聞きたかった。」
「え..」
「女の方に行くわけないって、俺は信じてましたけどね。でもやっぱり、謙也さんが告白されたとき、謙也さん本人からその言葉、聞きたいって思ってた。」


財前が俺の胸元でこちらを見つめる。
今までに感じたことのないくらい、心臓がどくどくと鳴っているのがわかる。
俺はどぎまぎしながらも胸の中の彼をまっすぐに見つめ、その背中に腕をまわし、黒髪に顔をうずめた。


「アホ。何度でも言ったる..。」
「謙也さん..」



今までにない腕の中の甘い彼に、俺は溶けそうになりながら自分の気持ちに誓いを立てた。




財前光。どんなことがあっても、お前は絶対に離さない。と。






end.





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