光謙 | ナノ

なぁ、財前、明日飛行機見に行かへん?!


そんなメールが唐突にやってきたのは、夜11時ぐらいのことだっただろうか。
何の前触れもなく、ヘンテコなことを言い出すのは決まって謙也さんだ。
明日..。俺は携帯を片手にカレンダーへ目をやる。予定は..特になし。


ええですよ。


いつもデートの誘いはこっちからやし。..まだ告白して付き合ってるわけでもあらへんけど。
俺たちはその後画面上で明日の待ち合わせだけ決めて、少しだけ胸を高鳴らせながら眠りに落ちた。




********************




「ざーいぜんっ」


午後2時。待ち合わせは比較的空港に近い、大きな公園の入り口正面。
謙也さんは時間ぴったしに、長丈のコートにマフラーぐるぐる巻きで現れた。


「お待たせ!」


恰好ばかりは大人だが、彼は子供みたいに鼻の頭を赤くしてにこにこと上機嫌に笑った。
彼の笑顔にドキドキが抑えられない。
でも、それは絶対顔には出さない。顔が赤いなんて謙也さんにいじられてペースを乱されるのは絶対に嫌やから。


それから2人の足は公園内の飛行機がよく見えるスポットへと歩み始めた。


「昨日いきなり誘って、びっくりしたやろ?ごめん。」
「ええですって。今日何も入ってなかったですし。」


そっかぁと嬉しそうに白い息を吐いて隣ではにかむ謙也さん。
かわええなぁ。こんな笑顔を独り占めできるのが俺だけだったらよかったのに。


「実は俺、昨日たまたまやってた旅行番組見てな。なんか飛行機乗りとうなってん!でも、まだ一人で飛行機にのるのはちょっと心細いし。なら!見に行けばええやんって解決
したっちゅうわけや!」


なるほどね、彼は俺とデートというよりも自分の突発的な欲求を満たしに来たっていうのが今回の主な目的ってワケか。
ま、謙也さんのことやし、想定内やったけど。ほんま相変わらずやな。
そりゃ、俺はただの後輩だし、恋愛感情なんてこれっぽちも抱いていなんだろうけどさ。


「へぇ。」
「あ!ここやで!ここ!一番きれいに飛行機が見えるの!」


そんなこんなでやりとりをしているうちに、木々が先ほどよりも生い茂っている場所へ来た。
生い茂っていると言ってもちゃんと小道は整備されていて、小高い丘になっているその場所にはベンチも置いてある。
知る人ぞ知ると言ったような雰囲気も漂っているその場所からは、確かにきれいに飛行機が見えるとだけあって景色が開けていて、広大な空が俺たちを包み込んでいた。
謙也さんはベンチの数メートルある柵に手をかけ、わぁっと声を漏らした。


「すごい景色やんなぁ、財前と来てよかった!」
「..俺と?ですか?」


謙也さんは海のようなきれいな瞳で空を見つめながら続けた。


「せやでぇ、財前結構インドアなイメージあったから、たまにはこういう開放的な場所に連れて来るのもええかなって。」


そうだったんだ。
謙也さん、ちゃんとここに俺のことも考えててくれてたんや。
俺は、あ!飛行機離陸や!とはしゃぐ謙也さんの背中を後ろからそっと抱きしめた。


「わっ...、ざい、ぜん..。」
「ええですよね、少しくらい、こうしていても。」


俺は謙也さんの背中に顔をうずめた。
謙也さんの温かいぬくもりと、こもった了承の声が聞こえる。
突拍子もない謙也さんにいつも巻き込まれているけど、でもこれが俺の日常の一部でもあって、俺はそれがたまらなく愛おしいと思う。
俺にこんな複雑な感情を与えてくれた彼に、伝えたい気持ちがどんどんと胸の奥からあふれ出てくる。


「.....財前、いつか一緒に遠いところ行きたいな。北海道でも、アメリカでも..ヨーロッパもええな。素敵な思い出、たくさん作りたい。俺、昨日テレビ見ながら、そんなことも考えてた。」
「..うれしいです。俺も、謙也さんとならどこに行ってもいい。」
「そか、よかったぁ」


俺は謙也さんの背中に耳を当ててその言葉を聞いてから、彼の隣に並んで、遠くに見える空港から飛びだっていく飛行機を見つめ、言った。






「謙也さん、好き。」




謙也さんは俺の告白をはっとしてこちらをまっすぐに見つめていたが、やがてやわらかい笑顔で口を開いた。






「 」





(俺も、愛してる)
end.




目次
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -