光謙 | ナノ
「なぁああ〜、ひかるぅぅ〜」


この人はいつだってそうだ。
人の気持ちも知らないで、シャツをひっぱって。
何でもないのにスイーツみたいな甘い声で、ねだる。
そう、俺財前光の彼氏、忍足謙也は酷いかまってさん



8月も半ば、ここ関西地方でも余裕で35度越えの猛暑日が続いているというのに、謙也さんは俺の隣をぴったりくっついて部活帰りの道を歩いている。
暑い。とにかく暑い。
俺が謙也さんに離れろと言ったところで、すぐにまたくっついて戻ってくるだろうから、ポケットにつっこんであった音楽機器を取り出してヘッドホンを耳に当てる。
口で直接言うより、この人は態度の方に敏感だと思う。     
横目で謙也さんが、困り眉になったのを見て、俺は選曲したふりをしてプレイヤーをポケットにつっこんだ。
ちょっと酷い?とも思ったけど、正直なところまじで鬱陶しかったから、まぁ...ええわ。
しかし、また調子を戻してすまし顔で帰路を歩み出すと、やっぱり謙也さんは俺の気持ちも知らずにまた口を開いた。


「...な、なぁ。仮にも俺先輩、やで?さすがにそれは俺も傷つくんやけど...」


その声はしっかりとヘッドホン越しに聞こえていた。
なんせヘッドホンしてたって、曲は流れていないんだし。
聞こえない振りを決め込むか、なに?みたいに振る舞うかでちょい迷ったけど、やっば謙也さんウザいから無視で。


 ▼無視
 ▽『何か言いました?』
 ▽帰る



まぁ謙也さんのことやし。すぐ立ち直るとは思うけど。
しかし、俺の考えとは裏腹に、今日はすぐに大人しくなった。
なんなん?
ちょお叩くとか、なんか突っ込まないの?
...自分で酷いことしてあれやけど、なんか調子狂うわ。


「......光、俺前々から気づいとったけど、俺、鬱陶しい?」
「...」
「俺と話すとき、なんか一瞬やな顔してへん?」
「...」
「.........ごめん。」


なんなん?ほんま調子狂うわ。
いつもだったら、ヘッドホンを力ずくでも外して俺にせまってくるのに、今日は本当に変だ。
さすがに今のはやりすぎた?


「....あ。」


俺はヘッドホンを外して首にかけ、ぱっと紺色の空を見上げる。
大人しかった謙也さんもはっと顔を上げて、何もない空をきょろきょろと見渡す。
そしてその格好悪くぶら下がった白い手首を掴み、自分の方へ寄せた。
なんか...かまってちゃんが大人しくなった途端に、酷く怖くなってさ。


「わっ!えっ、ちょっ...と...」
「謙...」


謙也さん、やっぱ好き─


そう言い切る手前で手首を思いっきり引いてキスをした。
目を閉じて、暗闇の中で目の前にある謙也さんの表情を想像する。
きっと目を見開いて頬に汗をたらしてる。


息が詰まってきたところで俺は唇を離し、すぐさま謙也さんを抱きしめた。
身長で言ってしまえば抱かれる方かもしれないが、謙也さんはまだ俺の背中に手を回していないから、俺が抱いているようには見えている。はずだ。


「ちょおっ...ひか、る?」


ひっくり返った声が耳元で呟く。
俺はついにこらえきれなくなって、口元を緩めた。


「...光...笑ってる?」


うん、笑ってる。
そういう謙也さんの裏返った声とか、動揺して手に汗かいてるところとか、ころころ表情が変わる様子とか。
かまってさんがウザいなんて言ったって、やっぱり俺の彼氏だし。
ごめん、今のはからかいすぎた。
やから、いつも通りのかまってさんでおって。俺、気ぃ狂うから。


自分でも、どう言ったかは覚えていない。
でも、こういうような趣旨の言葉を並べた。


「...光、やっぱ、俺、鬱陶しいんやね」
「...まぁ。」
「ええっ!?そこはちょっと否定したり、逆説入れるとことちゃうの!?」
「だから...」


俺は謙也さんを離して、一歩前を歩き、謙也さんの手を引っ張って言った。


「自分でもよう分からんけど、謙也さんのそういうとこも好きだ...って、言うとんのや。」


何回も言わせんなこのどアホ。


俺は謙也さんの手を引いて、再び帰路を歩み始めた。
やっぱ俺、かまってちゃんな謙也さんやないと、調子狂うみたいです。恥ずかしくって、こんなの誰にも言えないけど。





(光.../ /やっぱ俺光大好き)
(何真っ赤になって......きしょい)
(えええぇ!?)

end.




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