光謙 | ナノ
「もー、いい加減にせぇや!どこでも好きな所に行けばええ!」


あんなこと、言わなければよかった。



俺は財前が好きや!
ホモだろうがきしょいだろうが何言ったって、俺はあいつが好きやねん。
さらに幸運なことに財前は俺と同じ気持ちでいてくれた。
けど、気持ちが通い合ってからまだそんなにたたない頃、俺は互いがすれ違っているような気がした。
こう...なんというか、やって、財前、白石とばっかおるんやで!
部活中も俺が先に着替え終わって財前を待ってたって側からそそくさ白石が出てきて財前連れてってもうて、そんでもって、財前も特に抵抗せんし。
喋ってても白石のことばっか話すんやであいつ!
ほんまに俺のこと想っとるんか!?
それで、そう。昨日カッとなって言ってもうたんや...。


「はーっ。」


俺は1人帰り道、ポケットに手を突っ込んで深いため息をついた。
いつもなら二人でいる帰り道も、財前を置いてきた今日はもちろん俺一人だ。
やっぱ、寂しいわ...。
てか寂しくないわけないやろ。いつも一緒にいた人がいないんやで。


俺はもうすっかり暗くなった空の下、T字路に差し掛かったところで立ち止まった。
ここでいつもお互いの家へと別れていったなぁ。
俺はごくりと喉を鳴らしてポケットから携帯を取り出し、かつては大好きだった彼の携帯番号を押す。
かつて、いや...今も好き!...やけど─


ばくばくと高鳴る鼓動を聞きながら耳に携帯をあてると、すぐにがちゃりと音がした。


「...」
『......』
「.........」
『...........電話切りますよ?』
「わー!すまんすまんて!嘘!嘘!」


思わず黙りこくってしまった。
やっぱり、"聞き出す"のが怖くて...。
けれど、立ち止まって、このまま財前との縁が切れてしまうのも嫌。
切るならここでびしっと...いや、ホントは切りたくなんてない。絶対。
俺は携帯越しにいる彼の姿を思い浮かべて、ゆっくり口を割った。


「...その...」
『謙也さんが言わないなら俺から言わせてもらいますけど、なにのうのうと先に帰ってんですかこのどアホへたれぼけなす。』
「アホヘタレぼけなす!?何かましとんねんボケ!俺かて『嫌なんですよ。』」
「...は?」
『やから、謙也さんのおらん帰り道なんて、嫌や、て言うとんのや。』
「......ッ!」


俺は財前の台詞に言葉を失った。
ど、どういうことや...。
嬉しさと動揺で携帯を持つ手が震える。
足は細いT字路のど真ん中で止まったまま。


『なんなん?謙也さん俺のこと嫌いなん?』
「ど、どあほ!んなことあるか!財前やって、ホントは俺より白石のがカッコよくて、頼れる先輩て思っとるんとちゃうん!?」
『思ってます。』
「...へ?」
『謙也さんよりも頼れるって、思います。けど、俺はいろいろ抜けてる謙也さんが好き。』
「いや、嬉しいけど普通に傷つきます。」


こいつ、可愛いんやら可愛くないんやら...。
しかし、俺の口角は完全に上がっていた。
端から見たらただの変人やな。


「えっ、じゃあじゃあ、携帯と俺やったらどっちが好きぃ?」


目線を軽く携帯に向けて問いかけてみる俺は完全にあがり口調だ。


『わけのわからんこと言わんとってください。』
「えぇっ!?そこは謙也さんとかって答え『やめてくださいバカが移ります。』」


こいつ、デレたと思ったらぐさぐさぐさくさって...。
俺は棒のように突っ立っていた足をようやっと家の方角へと向け、歩き出す。
これで心配事が片づい......てない!
せや!忘れとった!白石!頼れる頼れないうんぬんやなくて─


「せや財前!」
『...なんすか。』
「なぁ!お前、最近白石とようつるんどるよな。」
『...あぁ、まぁ。』


なんやその微妙な間は。
なんか心配になるやん...。
まぁ、財前の気持ちが確認できた今は少し安心してるっちゃしてるけど...。


「白石、財前のこと好きなんとちゃう...?」
『さぁ。』
「さぁ。って.....俺、嫌やねん白石とずっと話しとる財前見んの─」
『やったら見なければええやないですか。』
「アホ!そーゆーんとちゃうって!」
『やったら、部長に謙也さんから言ってください。財前は俺のものやってん、横取りせんとって。って。』
「言えるか。」
『ちゃんとできたら、謙也さん、ヘタレ卒業や。』
「ヘタレ卒業...」


そもそも白石が持つ感情が俺と全く同じだなんて保証はどこにもない。 
もし口走ってそんなことを言われたら俺が恥かくだけや...。   
けど、これでヘタレ呼ばわりされることもなくなると思えば─


『じゃ、明日昼休みに部室って、部長に伝えておきます。頑張って。』
「え、ちょ、まっ...、」


ブツッ......ツー...ツー



ええぇ...。
俺は一方的にきられた携帯電話を握りしめたまま、通学路で途方に暮れていた。




**********




「言えたやないですか。」
「お......おん。」


次の日の夕方俺はいつものように財前と一緒に帰路を歩んでいた。
もちろん、手を繋いで。


俺は、白石と財前のことについて話した。
俺が財前が大好きだってこと。付き合ってるってこと。
震えた手を握りしめて、俺は大好きな財前とずっと一緒にいたかったから、一生分の勇気を振り絞って、白石に明かした。
白石笑ってた。
必死で滴る汗をぬぐって愛を語る謙也には勝てん、言うて。
困った顔して笑って、幸せにしてやれって、そう背中を押された。
あいつ、良いこと言いよる最高の男や!くさいけど!なんかくさいけど!


「...やっぱ白石も財前のこと好きやってん。」
「へぇ。」
「へぇって..でもな!俺な!」


俺は達成感いっぱいの笑顔で財前の目の前に立って、彼の両手を握りしめる。


「無茶ぶりやったけど、白石に言ったで!俺は、財前が好きやねんって!」
「......ほな」


ヘタレも卒業?


突然胸ぐらを捕まれて、吸い寄せられる体。重なる臼紅色。
紡ごうとした言葉は財前に持って行かれて、ほんのり体温が上がる。
そして名残惜しく、音を立てずにそっと身体が離れる。


「ヘタレは、キスも一人前に自分から出来るようになってから卒業なんで。」



なんやかんや、ヘタレ卒業にはまだまだ時間がかかりそうや...。






end.





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