光謙 | ナノ
うぅ、悲しすぎるわ....
俺はこのタイミングで携帯を開き、あいつにメールした俺自身を責めた。
なんでやねん。
アホか。
このバカみたいに辛い高校生合同合宿でメールした俺がほんまのバカやった。


それはほんの10分前のこと....



「しゃ、しゃくとりむしいいぃぃぃぃ!!!」
「謙也うっさいわ!女か!」
「やって、やって....」
「なんや、しゃくとりむしもポンタグレープ飲みたかったんやな〜、ほな....よっし!これでOKやな!」
「「き、金ちゃん....」」


金ちゃんが俺の肩にいつの間にかついていたしゃくとりむしをジャンプして素手で掴むと、紫色の空き缶にひょこりと乗せた。
その光景はもう中学生どころか...
ジャージでなく適当にTシャツを着させてしまえばそこらの小学生だ。


「...でも、こうして見ると案外可愛ええかも。」
「せやなぁ...!なんか、なんか面白!」


俺の引き腰はどこへやら。
俺は目をキラキラさせながら迷うことなくポケットから携帯を取り出し、そんなシュールな絵をぱしゃり。
そしてそれを新規メールに添付して宛先を指定し、慣れた手つきで送信。
相手は面倒臭いという信じられない理由で合宿に来ず、現在大阪で過ごしているであろう片思いの相手、財前光だ。
予想通り、返事はすぐ帰ってきた。
財前はいつも携帯いじってばかりやからな!
これだけは俺よりも早いねん。



Re:

本文:きも




あぁ、返事が早いわけだ。
余白とこの文字の対比が相当極端なことになっているのは一目瞭然なのだから。
しかし、これがあいつのいつもの姿。
相手が先輩にも関わらずここまでラフ(?)なメールを送ってくれるのはこいつくらいだ。


「謙也、余裕やなー、ほな俺らは先行くで?」
「....?謙也ニヤニヤしとるー?」
「(びくっ)」
「うわぁ、ほんまか金ちゃん?せやったら携帯見てニヤついとる変態さんからははよぉ離れんとあかんで?」
「おん!」
「しっ、白石に変態言われとうないわ!アホー!」


焦ったぁ、そや、2人と一緒にいたの忘れとった...
片思いの人相手だとほら、何も見えなくなるやん?
...自分でも認めがたいけど、俺は財前が好きや。
やって、イケメンやん!
勿論そればかりやないで?
案外ええ奴やし、テニスうまいし...。
男やけど、気づいたら惹かれとった俺がいた。


...って、熱く語っとる場合やないねん! 
はよぉ返信返信....




Re:Re:

本文:俺の肩についとったんや(笑)



送信。



ブーーッ



Re:Re:Re:

本文:合宿の土産頼みます




「そや、財前はここにおらんもんなぁ...」



Re:Re:Re:Re:

本文:安心せぇ、腐る程買っとく!



送信。


ブーーッ、ブーーッ



Re:Re:Re:Re:Re:Re:

本文:あ、謙也さん、報告があります。




「...」


今まで高鳴っていた胸の鼓動が消えて、サーッと血の気が引いていくような気がした。
というよりは、わざと、かな。
こういう報告とか、改まって言われる時は大抵マイナスなことを想定するのが俺のやり方。


財前はモテる。


俺の言いたいことがこれでお分かり戴けただろうか。
やって、嫌やもん!
改まってこんなん言うの!


多分、いや、90パーセント彼女が出来た。
せや、絶対。
もうこう思い始めたらこの考えは何があっても俺の記憶にべったりと張り付いて離れない。
嫌な記憶程そうだ。まったく人の脳のつくりはどうかしてる。


やから、こういうの。自虐。っていうの?
傷つけられるなら自分で傷つけた方がマシってやつ。



Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:

本文:あ、当てたる!自信あるで〜、彼女!せや!彼女できたんやろ!?ん?



送信。



............




あれ、返事遅いなぁ。
ちょお俺が返事するん遅かったからやろか、それとも先生に見つかったからやろか。
いや、財前に限ってそんなことは。




................ブーーッ




はぁ、心臓に悪い。
握りしめた携帯が振動して、思わず携帯を落としそうになった。
俺はドキドキしながらメールボックスを開く。
もちろんドキドキっちゅーのは、ほんの少しの可能性に期待して....





Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:

本文:なんか急に張り切ってますね。
まぁ、当たりですわ。




........................





Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:

本文:おめでとう



送信。




........やっぱ、ですよね。
でも、ごめん、なんか、素直に祝えないわ。
つか祝えるわけあるか、ボケェ!!
好きなんやで?!俺は本気で財前と付き合いたいと思ってんねんで?!
........はぁ、終わった。
俺の初恋。
....もうええわ。
男好きになる男って時点で俺もうどうかしとったんや。




Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:

本文:ありがとうございます






俺は深く息を吐いて携帯をジャージの中に閉まった。
もうやめよう。自虐すら辛い。
もう、財前なんか勝手にしゃくとりむしみたいに、可愛ええ女もろてリア充満喫してればええ。
俺はスピーディーちゃんとリア充するんや!



ほな、さいなら。





--------------------------------






ブーーッブーーッブーーッブーーッ


「なんや....ねん...ッッ!」


夜中。とにかく夜中。
俺の携帯はアラームを知らせる目覚まし時計機能ではなく、着信機能が起動していた。
情緒不安定なせいか、俺の浅い眠気はそれによって完全に吹っ飛ばされた。


「...もしもし。」


同室者にバレないように布団の中に潜り込んで小声で応答する。


「もしもし、謙也さん?」
「財前?」


電話の掛け主は元片思い相手財前だった。
勿論諦めきれたわけやないけど...


「よ、用件はそんなに急ぎなん?こんな時間やしバレると色々面倒やねんけど」


俺はその気持ちを殺すようにわざと今までにないくらい財前に冷たく当たる。


「んー、まぁまぁ急ぎですかね。謙也さんに誤解されたないと思うて。」
「意味わからん」
「........。」


財前の声は俺をずきずきと突き刺す矢でしかない。
やって、
気づいたら
涙出てる....んやもん。


「怒ってます?俺のことで。」
「...」
「それともメールのこと?」
「....。」
「図星、ですか。」
「....ちゃうわ。」
「そうですね....謙也さんが不機嫌な理由その@、後輩が先に彼女つくったから嫉妬している。そのA財前はイケメンだから嫉妬している。そのBそんな財前が女に取られて悔しい。」
「....ッッ」
「その様子じゃあ....全部当たりって感じですかね。ね、謙也さん。」
「........ざっ...」


ダム完全崩壊。
俺の目からは絶え間なく大粒の涙がこぼれ落ちてシーツを濡らした。


「謙也さん」
「ざっいぜ....ごめんっ、俺....ひっく...財前のこと」


もうなんでも消えてしまえ。
今までの財前との思い出。
俺のプライド。
全て...
電話越しの、お前へ伝わればいい。


「好き。」


震える手でシーツを握りしめて、必死でひゃっくりを抑えながら言葉を紡ぐ。


「俺、さっきメールでムキになってん...ッ、やけど、実際に財前が付き合った言うて、っ悲しく...ひっく........なって、もうっ、俺男、やし、ヘタレやけど、フラれるなんてっ、分かりきってる....けど....ッッ」
「謙也さん、もう泣かんとって...。もどかしくなりますやん。」
「........へ?」
「謙也さんの涙拭ってやれない。」
「....ッ、やめぇ。....っ期待するやん........。ズーーーッ」
「えぇぇ....」


財前の包容力のある言葉につい口元が緩み、鼻水を思いっきりすする。


「ズズッ、....へへっ、すまん(笑)」
「(笑)ちゃうわ、アホ。....」
「........。すまん財前、ひいた...よな。俺ただの先輩やし。」
「....謙也さん。」
「男........やし。」
「謙也さん、あんたの悪い癖ですわ。」
「....?」


俺は涙を拭って携帯を握りしめる。


「自虐。まぁこれからは俺がカバーしていくことができそうですけどね。」


財前の言った意味がよく分からず、口から言葉がでなくなる。


「....どもんなや、喋りにくいやろ........。はぁっ。やから、俺も謙也さんが好きって言うとんのや。」
「........夢か。」
「かもしれませんね。」


財前から言われた言葉が信じられなくて、でもそれと同じくらいの嬉しさがこみ上げてくる。
そのもどかしさを俺は痛みへと変える。
頬を思いっきりつねるのだ。


「....夢やない。」
「謙也さんが今やってること、なんとなく想像つきました。」
「えへへ...」
「謙也さん。」
「?」
「すみません。あのメール、ちょぉむかついたんです。」
「...というと?」
「報告、なんて、俺ただ無事帰ってきて、はよぉ善哉食べましょうって伝えたかっただけなんに、まるで俺に彼女が出来て欲しいみたいな言い方されたから、なんか....イライラして...。」 
「....ごめん。俺な、財前にフラれる前に自分でケリつけなきゃと思て。」
「アホですね。俺は謙也さんが他の人を好きでも、自分で告白しようと思うてましたもん。」
「俺、女々しいな。」


俺はまた自分をケラケラと笑った。


「でも、その方が俺も守りがいあります。」
「え、俺男やで?守るも守られるも関係あらへんやろ?」
「ありますよ。やってセックスの時どないするん?どっちかがし「わかったー!わーかった!」」


俺は一人突っ走る財前を止めて一息おく。
つか、ほんまか!
あれ嘘やったん!?
........あかん、情緒不安定治った。絶対治った。
俺はほんまに、財前と両思い、なんや...。


「謙也さん。」
「ん?」
「はよぉ帰ってきて、善哉一緒に食べましょ。」
「....ッおん!帰ったらすぐに財前の元に飛んでいくからな!」
「待ってます。ほな。」
「財前、待って........」


俺は携帯越しにはてなマークを浮かべる財前に、心をこめて、初めての言葉を口にする。


「あ、愛しとる。」
「....ッ」


ツー....ツー....



あ、あかん、緊張しすぎて電話切ってもうた....
お、怒ったやろか。
いや、でも、財前やから...。


俺は携帯を枕元に置いて再び布団に潜り込んだ。
 ─深く深く果てしない夢の中へと
そして、早朝携帯に彼からのメールを確認して眠気が一瞬で吹っ飛んでいくのはまた別のお話。





(その悪癖がさらに俺の心をくすぐるんですわ。)




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