光謙 | ナノ
  7.20


本日天気は快晴、気温は余裕の30℃越え。
日本気候特有の湿気がさらに体感温度を高めるなか、俺は汗を拭いながらお洒落な店が立ち並ぶ道を歩いていた。


今日は恋人の財前の誕生日。
素敵やろ?
恋人の誕生日って、世間で言うたら付き合い始めて〜...記念日に次ぐ超ビッグイベントやと思うねん。
あっ、もちろん公にして今日は俺の世界一大切な恋人財前の誕生日です〜なんてことはせぇへん。
男同士っていうのに偏見をもつ奴なんてそこらじゅうにうじゃうじゃおるし。
まぁ、俺らのテニス部じゃそこまでおかしな話しやあらへんけど。


そんなことはさておき。


2時間後には財前の家にお邪魔して、誕生日パーティーに参加させてもらう予定だというのに。
俺は未だにプレゼントを手にすることもなく、ただただ店に入って唸っては外に出るという単調なことしかしていない。
どーゆーこっちゃ。
勿論誕生日は前々から把握していたし、どういうシチュエーションで財前にプレゼントを渡そうかというのもちゃんと考えていた。
考えていたのだ。
しかし、この世の中に、想定不可能の出来事が起こることはしょっちゅうなのだ。


「謙也さん、すんません。今日やっぱ俺んち来て下さい。家族が謙也さんと一緒にパーティーやる言うてて。」


あの一言で俺の丹念がこもった計画はぶっ飛んだ。
家族と一緒、もっとわかりやすく言うならば、2人きりで誕生日を満喫できないということはつまり事の行いの範囲が狭まるということだ。
要するに女々しくお揃いの指輪やで!なんて言って迂闊にポッケに潜むアクセサリーを渡すことができない。
渡せるわけがない。
そんなこんなで誕生日プレゼントを買い直しにわざわざ電車に揺られてここまで来ているわけなのだが......


「あかん、そろそろ帰って準備せな...」


時間は残酷にもどんどん過ぎていく。
あぁ。こうなったらもう指輪を渡すだけ渡そうか。
お揃いっちゅーんは内緒で。
俺は結局厚みを変えなかった財布を手に駅へと向かった。






「はぁっ、はぁっ」


無駄に力みすぎた。
帰って着替えに悩んでいたら30分もかかってしまった。
『女子か!』
俺はいつも洒落乙な財前に決まってツッコむ台詞を自分に向けた。
ほんまや。
まるで結婚式の申し出だ。
俺は走って財前の家へと向かった。


「あ、やっぱり謙也さんや。」
「...!財前!」


玄関のドアを開けて、ひょっこりと顔を出している財前の可愛さと言ったらそれはもう犯罪レベルです。
財前は今日も相変わらずグレーのスエットに身を包んでいる。
こいつは今日自分が主役ということをお忘れのだろうか。
真剣に洋服と睨めっこしていた俺がまるでアホや。
まぁ、ここで財前がスーツなくともちゃんとした服着てたらそれもそれでビビるかもせぇへん...。
俺は財前に誘導されるがままに玄関に上がり、リビングへと進んだ。


がちゃりと音を立てて滅多に行かないリビングに入ると、家族一同様から温かい歓迎を受けた。
財前のおとんはここずっと出張ということだったが、どうやらお兄さまはご在宅のようだ。
財前のお兄さんには以前一度だけ会ったことがある。
会釈を交わしただけやけど...。


「あ、謙也くん、来てくれてはったんやね。いらっしゃい。」


お兄さま...!
俺のこと覚えててくれてたんや...!
嬉しさのあまり、自然と口元が綻ぶ。


「はいっ!むしろ俺がここにいてええんかと思うくらいですけどね!」
「そんなことあらへん。よう光が話してんで、謙也くんのこと。」
「やめれや。」


お兄さんと二三言会話を交わしていると、どうやらそれを恥ずかしく思ったのか、財前が割って入ってきた。
こうゆうところは相変わらず子供っぽくてかわええ。
さすが俺の彼氏や!


「光は謙也くんのこと大好きやもんな〜♪」
「ほんまやめてそういうの。」


それに追い打ちをかけるように財前のおかんが上機嫌で目配せながらそう言った。


そしてすぐにクラッカー音と光おめでとうの声が部屋に響き渡る。
豪勢な料理に恋人の誕生日と、俺のテンションは上がっていく一方だ。
財前もやっとテンションが上がってきたのか、顔を少し赤らめてべらべらと普段の学校生活をしゃべり出した。
珍しいなぁ、家では財前こんなにお喋りさんなんや...
そうして4人で戯れているうちに、あっという間に時間が過ぎ、丹念に用意されていた食事も残すところデザートのケーキのみとなった。


「なんかすみません、こんなによくしてもらっちゃって...」
「なーに言ってんの!うちの光がお世話になってるんやから、当たり前や、さ、謙也くんも食べて、食べて!」


光とはまるで正反対の陽気なおかんは俺達の前に紅茶とチーズケーキを配膳する。
よし、今や。
これを逃したら俺のいいところを財前のおかんやお兄さんに見せられなくなる...!
友達に、ただのプレゼントを渡すだけ、飾らず、自然に...!


「せや財前、プレゼントがあるんやで〜っ」
「えっ」
「嬉しいやろ〜?ほいっ!誕生日、おめでとさんっ」
「...ッ」


俺は隣でチーズケーキを食べる手を止めて唖然とする財前に精一杯の笑顔を向けて、ラッピングされた小包を渡した。
財前のおかんやお兄さんはそんな俺を見ておおっと声を上げて、改めておめでとう、と財前を祝った。


「...ありがとうございます。」
「どういたしまして!」
「なんや光たどたどしいなぁ」


財前はまた恥ずかしいのか、俯いてラッピングをきゅっと握っている。


「せや、俺も...」
「?」
「俺も謙也さんに渡したいものがあんねん。」
「おっ、嬉しいわぁ。」
「せやから、ちょお来て下さい。」
「は?」


刹那、急にイスから立ち上がった財前に腕をひっぱられ、お兄さんとおかんにぺこりと頭を下げてリビングから出て行った。
早足で行き着いた先は、財前の部屋だ。
そこで勢いよくドアをばたんと閉められると、俺はベッドに強く打ち付けられた。
背中にじんわりと痛みが広がる。


「なん...ッ」
「謙也さーん、謙也さぁーん」
「...は?」


明らかに様子がおかしいと分かったのは、財前に馬乗りされ、首もとに舌を這わせられた時だ。
妙に熱い吐息に親父特有の匂い...


「...ッ財前、酒...飲んだん?」
「ふええぇぇ〜?」


答えを聞かずとも、もう呂律の回らない財前の様子を見てすぐに結果は目に見えた。
だからあの時やけにお喋りさんに変貌したわけや...
財前はただ俺を一方的に求めてシャツを限界までまくり、空気に晒された乳首に舌を這わせ、さらに空いた手で互いのズボン、下着を脱がせる。


「あっ...はァっんん」


漏れるのは俺の惨めなあえぎ声と財前がわざとらしくたてる水音だけ。
恥ずかしくなって、俺はついつい口を半分力の抜けた両手で覆う。


「謙也さん、何隠しとるんですか殴りますよ。」


財前の先ほどとは明らかに違う低い声のトーンにはっとした時にはもう遅かった。
財前の平手打ちが俺の額にヒット。
ばちんと場違いな音が部屋に響いた。


「...ッつぅっ!!」
「謙也さん、謙也さん。」


財前は乱暴な手つきで俺の髪をひっぱり、顔を近づける。
こ、怖い。
確かに俺は普段からビビりやけど、これは多分白石でもゾクリとくるはず。(させへんけど。)
すでにさらけ出されたお互いの自身は固くなっている。
これが後々起きることを予期させる。


「俺がー、謙也さんとえっちするのはぁ、謙也さんの声が聞きたいのと、謙也さんを気持ちよくさせてあげたいのと、俺のを中に出すため、なんですわぁ。」
「んんっ」
「せやから、我慢せんでくださいね?」


財前は目を細くしてにんまりと笑いそう言うと、まだ濡れてもいない俺の蕾の中に指を挿入した。
後ろに広がる違和感と痛みに思わず顔をしかめる。


「んんんっ、ちょおっ...まっ」
「はぁっ、はぁっ」


ひとりでに息が上がっている財前は準備万端かもしれない。 
せやけど、俺は先ほどまで恐怖に怯えていただけ。
すぐに慣れるとは思えない。


「うっ、はぁっ、ったい...!んんっ、んんーっ」
「はぁはぁっ、はぁっ」
「もぉ...っや!財前!」
「謙也さん、もっと、脚開いて。いれられへん。」
「うぁっ、ばっか!」


刹那突発的に財前を突き飛ばした右足を、俺はしばらくの間責めることになる。
財前の心に火を付けてしまったと思われる俺の自殺行為はすぐに返ってきた。


「謙也さん...やりましたね...?」


ベッドの端に体勢を崩した財前はよろつきながら、再び俺の上にまたがると今まで俺の中に入れていた指を無理矢理俺の口の中に入れ、それを舐めさせた。


「はよぉ、舐めろ言うとんのや!」
「んんっつぅっ...!は...ッん」


俺は無我夢中で財前の二本指を濡らした。
財前の脅迫に怯え、もう殴られたくないと、それだけが脳裏をよぎる。
財前はそんな俺にようやく満足したのか、それを満足気に再び俺の中に入れた。


「あぁっん!ぁんっ、ふぁっ」


自分の液でぐちゃぐちゃになった中に羞恥を感じながらも、明らかに快楽に変わりゆくこの感覚を愛おしくも思っていた。
そうして目を細めて数秒後、指が抜かれたと思ったと同時に明らかに質量面積の異なる財前の自身が俺を突き上げた。


「っっっっ!!!!!」
「謙也くーん?光?どないしたん??」


叫ばなくてよかった。
俺は財前のおかんの声がドア越しに聞こえてきてから痛感した。
おそらく喘ぎ声が漏れていたのだろう。
唐突な出来事にそこまで配慮が配れなかった。


「おか...ん?」
「光ー?」
「今?今謙也さんとえっ」
「英語の宿題やってます!!」


俺は急いでのろける財前の口を塞ぎ、焦ってごまかす。


「こいつ何くれるんやろって期待しとったら英語の宿題やらせられてるんすわぁ。」
「ちゃうわー!俺英語得意やしー!謙也さん中まじあ」
「せやから心配しなくて大丈夫ですわ!」
「そぉ〜?何かあったらいつでも呼んでちょうだいね?」
「ありがとうございます〜」


階段を降りて部屋に入る音を確認してから、俺は財前の口を塞いでいた手をゆっくり離した。


「何すんねんこのアホ!おかんに見せびらかそうと思うてたんにー!」
「アホはどっちやボケェ!」


財前はうつろな目で俺を責め立てるが、もう何も言うまい。
こいつは酔っているのだ。
財前は気を取り直したのか、俺の膝を肩に乗せ再び中を激しく突く。


「ッッッ!!!」


先ほどのことを思い出し、痛みを叫ぶ声を歯をくいしばって堪える。


「謙也...っさ、締めすぎやねん!」
「やって...っったぁッッ!!ぁあんっ!」
「(なんや、気持ちよさげや。)」


俺は自然ともっと快楽を求めて腰を小さく振る。


「あっ、はぁっ、はっぁんっ、はぁっ」
「んっ、謙也さっ...ん、あっつい...っはっ、あっ」
「....っ........ええよ、気ぃ済むまで出せばええ...」
「...!謙也さん....ッッんはぁっはぁっ」
「ふぁっ、あんっあぁぁっ、はぁっ、んっ」


中にとろっとしたような生ぬるい財前の精液が出たのを感じて、俺は自ら財前の腰をつかんで、そう言った。


「はぁっ、もっ、あぁんぅぅうッッ」


そんなことを言ったって自分に余裕なんて全くないわけで。


「謙也さんっ...!はっ...ッ」
「イっくぅっ...はんっ..あぁっ」


俺は財前の顔を汚すだけ汚して達した。
自身はすっかり出し切ったというように萎えてしまっている。


「....。」


財前はそんな意識がもうろうとした俺を気遣って全て後始末をしてくれた。


「..財前。」


今俺達はすっかり綺麗になった薄い毛布に2人身を寄り添わせながら、ベットの中にいる。
財前はすっかり酔いが冷めたのか、冷静さを取り戻していた。


「なんですか?」


俺が愛しい奴の名前を呼ぶと、そいつは俺の頬を人差し指と中指でなぞって、そっとほほ笑んでくれた。


「あの誕生日プレゼント、見てくれた...?」
「勿論ですわ。..ほら。」


財前は今まで布団の中に潜ませていた逆の手を俺の前に出した。
その細く、白い薬指には、シンプルなリングが飾られていた。


「っ...嬉しい。」
「嬉しかったのは俺の方ですわ。ほんまに...おおきに。」
「おん...。でな、財前?」


そして俺も、今までずっと隠していた左手を財前の目の前に持ってきて、言った。


「実はこれ、婚約指輪なんやで?」
「....っ!!」


俺の薬指に光るのは、財前とおそろいの、一回りだけ大きいリング。


「謙也さんっ」
「へへっ...ちょおグダグダになったけど...」
「じゃあ謙也さん、近日中に結婚式挙げな。」
「ははっ、せやな!部室貸し切りや!」
「...謙也さん」
「財前...。誕生日おめでとう。」


もう、同性とか、先輩後輩とか、関係ない。
ただ、惹かれ合って、重なって、愛がカタチになって、それだけでええんや。
この誕生日は、そんな大事なことに気づかせてくれた、大切な記念日...



「愛してる」





(じーさんになって、よぼよぼになって、歩けなくなって..天に昇るときも、ずっと一緒やで)







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