光謙 | ナノ
 かこん、かこん



大通りを少し逸れた坂道に夏らしさを漂わせる下駄の音が響く。
車のライトが俺を一瞬だけ照らしてからすぐに隣を通り過ぎる。
時刻はもう午後9時を回っているだろう。
この薄暗い通りを歩いているのは俺と、どんどん前を行く自転車を漕いでいる人だけだ。


「はぁ、痛い。」


俺、財前光はぽつりと呟きながらとぼとぼと道を歩く。
クラスメートと地元の割と大規模なお祭りに行って少し騒ぎすぎた。
足を地につける度に走るかかとのがんがんとした痛みがただでさえ長い帰路をさらに長くしていく。
しかも今俺が纏っているのはもちろん下駄に合わせて浴衣である。
女であるならまだ我慢できるかもしれないが、男にとっちゃこの大股で歩けないもどかしさは本当にたまったもんじゃない。
親は夜勤だとか飲み会だとかでいないし、裕福でもない俺はタクシーを使うこともできない。
つまり、あと少なくとも15分はかかるであろうこの帰路と俺は奮闘しなければならないわけだ。


「......財前?」


そんな超不機嫌な俺にばったりと会ってしまったのは俺の大切な恋人の謙也さんやった。
謙也さんはシャツにYシャツを羽織って、半ズボンにサンダルという超ラフな格好で片手に小さなビニール袋を持っている。
おそらく勉強休みにコンビニでも行ってお菓子やら飲み物やらを調達してきた帰りだろう。


「財前?お祭り行ってきたんかー!ええな、ええな!...で、お土産は勿論...」
「ないっすわ。」
「ですよねー」


そんな他愛もないやりとりがたまらなく楽しいのか、謙也さんはケラケラと笑っている。
その愛しいはず、むしろそれを通り越してぶち犯したい程の笑顔は今の俺をイライラを増幅させるだけだ。


「....って、財前?ど、どないしたん?そんな恐ろしい顔して...」
「恐ろしいのはその俺のイライラテージをどこまでも上昇させていく謙也さんの笑顔ですわ。」
「は?」
「とりあえず、痛いんですよ。足。」
「....あ。」


俺は右足を上げてそのかかとを指さす。
目立った外傷はないのだが、こういうことに関して勘のするどい謙也さんはすぐに俺の容態に気付いたらしい。


「だ、大丈夫か!?せやったら、家までおんぶしたるわ!」


謙也さんはあたふたしてコンビニの袋を持ち直して俺の前にしゃがんだ。
...アホかこいつは。
出来ないことはないかもしれんけど、浴衣でおんぶなんて無理やろ。
前は不用心にさらけ出されることになるわけで、浴衣はそのうち、多分、はだけるなんてレベルじゃなくなる。


「謙也さん、俺、おんぶより」
「ちょっ、ちょぉっ....!」


俺はしゃがみこむ謙也さんの前に行って首に手を回す。


「お姫様抱っこがええです。」
「はぁぁぁぁ!!!?」


近所迷惑だと頭をどついて、さっさと言われた通りにしろと謙也さんに促す。
謙也さんは一瞬とまどっていたが、すぐにあたふたして態勢を立て直し浴衣にくるまれた俺の両膝を持って、背中をささえ、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がった。
だんだんと道が遠くなって、顔を上げればそれまで見えなかった家や塀が見えるようになる。
これが身長10センチの差、か...。


「財前、こわない?」
「余裕っすわ。」


実はちょっとびびってたりもする。
自然と謙也さんの首に回している手に力が入るのをめいいっぱいごまかして、俺は強がった。


「ほ、ほな行くで。」
「はい、お願いします。」


謙也さんはたどたどしく俺にそう一言声をかけると、一歩一歩ゆっくり歩きだした。
ゆっくりと言ったって、反動はそれなりに大きい。
謙也さんの大きな足が地に着くたびに俺の身体は上下に揺れる。
本来なら逆をやりたかった、切実に。
だがこんなことも言っていられない。
今はこんな状況下におかれているのだから。
先ほどまでの下駄の音は消え失せて、変わりにスニーカーの聞きなれたすっすっというコンクリートとぶつかりあう音が通りに響く。


俺はそっと俺を抱える謙也さんの顔をちらりと見た。
頬からは一滴の汗が滴っていて、息も先ほどと比べるとだいぶ上がっているように見える。
そりゃあそうだ。
今は思いっきり夏やし、夜と言えど湿度は高め、且つ俺は女みたいに軽々しくない。(勿論色んな意味も含めて。)


「謙也さん。」
「ん?」
「バージンロード歩く時もこれがええですね。」
「..っ。せ、やなぁ。立派なタキシード着て...」


...面白。
謙也さんめちゃくちゃ反応してますやん。
でも、結婚とかできるんやろか。
純粋な疑問が脳裏を過ぎる。


そんなこんなで2人人気のない小道を進んでいくうちに俺の家にすぐついてしまった。
もっと、こうしていたかったな...なんて、俺らしくないやろか。


「さっ、着いたで。」
「ありがと...ございます」
「ん、どういたしましてっ!」


謙也さんは可愛らしい笑顔で俺の頭をぽんぽんと撫で、俺を下ろそうと膝をもつ手の方を下ろしていく。


「謙也さん待って」
「え」


ちゅっ..


悔しい程の唇までの距離を精一杯埋めてからの触れるだけのキス。


謙也さんは、そんな俺の行為に驚いたのだろうか。
俺の膝を支えていた手から力が抜けて、俺の足が勢いよく地に叩きつけられた。


「....っっ!!!!」
「あっ、あぁぁぁぁっっ!!ごめっ、財前!すまんっ!」
「.........うわぁ、明日部活出られるやろか。」


痛かったのは確かだ。
だけど、変に着地の際に足首をくじいたというわけでもない。
じゃあどうしてこんな痛々しく演じるかって?
そりゃあ...


「どっどっ、どないしよぉぉおおぉっ!財前病院行くか!?ほんまっ、うわっ、どないしよ!」


この人のリアクションが面白いからに限る。


「やったら、謙也さん。一回家入りましょ。」
「えっ...」
「謙也さんに、看病してもらいます。ええですよね?」


俺は、やってしもたと顔を青ざめていく謙也さんに、彼の大好きなとびっきりの笑顔を向けた。


「......おん。」







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行き慣れた恋人の玄関、階段を上った先にある一角の部屋。
俺は財前をかばってその部屋のドアを開けてベットに座らせた。
電気をつける暇もなく、月明かりだけを頼りに一階から持ってきた保冷剤、タオルと救急箱から包帯を取り出す。
足元を覆い隠す紺色の浴衣を上げて、俺は小動物を介抱するように細い財前の足首にタオルにくるんだ保冷剤を当てる。


「どや?痛い?」
「.......」


ベットの窓から零れる月明かりを背景にした財前を見上げるが、それに応じる様子はない。
...どないしたんやろ?
やっぱり相当痛むのか...。
驚きと嬉しさのあまりあ然としてしまった当時の俺を、めいいっぱいに責める。
もし財前が俺にばったり遭遇せずあのまま家にまっすぐ帰っていたならば...


「っ、財前、すまん...。ほんまに...。」
「......いえ。」
「...っ」


怒っとる?なんて聞こうとしたけれど、俺はその言葉が出る寸前で呑んだ。
やって、財前が怒っとるなんて流れから考えて当たり前やろ。
俺はそっと細い財前の足首に手を這わせて、俯き加減に謝った。


「......ごめ...」
「....」
「ごめんな、財前。俺、ほんま何やってんのやろ。」
「........ら....」
「へ?」


財前の一言が頭上で聞こえたその途端、景色が反転した。
背中には柔らかいベッドの感覚。
今まで月明かりで象られていた財前の輪郭は俺の眼前に迫っていて、逆にその綺麗でしたたかな光は俺の顔を照らしていた。


「なっ、なん、ッッ....んっ」


突発的に抵抗した俺の両腕を払って、ベッドに倒れる俺に強く口づけをする。
財前は片手で俺の片足を立たせ、それを厭らしく撫でていく。
油断をすればすぐに舌が侵入してきて、中をかき乱す。


「ぅっ...ッ。ふ...ぁ、んんっ、ひぅ...っ」
「...っ。はぁっ。」


乱れた呼吸を整える隙もなく、財前は俺のシャツを捲り上げ腰から胸へと二本の指で輪郭を撫でる。
その手つきは年下、もはや同じ中学生とは思えないくらいにエロい。
行き着く先は俺の弱みである部位だ。
財前はそれを知っていて尚そこをいつも攻め立てる。


「ひっ、きょ......やぁっ!」
「卑怯?卑怯なのは俺を狂わせた謙也さんとちゃいます?」
「...ぁあっん、ふぇっ...ッ、んんっ」


財前は遠慮なしに胸の突起を指の腹で転がしたり、つねったりしてから、そこに舌を這わせる。


「うぅッッん、はぁッん、はぁっ」


さらに財前は空いた片手で俺のズボン、下着を脱がせて、完全に勃ちあがった自身を愛撫する。


「ふぁんっ、あァんっ!ッッんっ、あぁっんぁんっ」
「はっ、はぁっ、謙也さん...ッ」


今まで恥ずかしくて逸らしていた目を財前にちらりと向けると、それはもう今までにないくらいエロかった。
浴衣だけあって、首もとから滴る汗、もはや付けているだけ状態の上半身、完全にさらけ出した下半身に、乱れる財前の姿は正直最高や。
こんなカッコええ財前は俺だけの、財前。
他の誰も知らない、俺だけの...


「ざいっぜん、好...ッき、はぁっん、好き...やからっ...!」
「...はぁっ、分かってます...ッ。」


財前をここまで乱せるのは、俺だけ。


「好きやからぁっん、あぁっ、もっと、もっ......と...ッ」
「んんっ、謙也さん、愛してますっ」
「おんっ...はぁっ、はぁっ、俺もやぁ...っあァっ。イっくぅっっ」


さらに激しくなる財前の手の動きに我慢できなくなり、自身から勢いよく出た精液が、財前の夜色をした浴衣を白く染める。


「ごめっ、やぁっんあぁっ、んっ、はぁっ」
「...お仕置きですわ。」
「ふぅぅえっ...んんっ、ひゃァァっ!」


刹那、財前が体勢を立て直したかと思うと、俺の脚を無理矢理開いて自身を俺の中に挿れた。
灼熱の財前と痛みが俺の感覚を狂わせる。
財前は俺のM字型になった両膝をつかんで腰を振りながらそれを奥へ奥へと進めていく。


「あっ、ひゃぁんっ、ふぁぁっアァんっ、ぁんっ」
「はぁっ、はぁっ、」
「財前のッ、あぁんっ、もっ....とぉっ、あんんっ」
「いくらでもッ、ヤったります...っっ」
「あぁっ、やぁぁんっ、ふぁっ、んんっ、あんッ」


奥まで着いたと思うと同時に、抜き差しが中で繰り返される。
俺の自身は疲れ果てることも知らず、その後3回も財前の自身でイった。
財前も最後俺が果てたときの締め付けで、中に出してそのまま眠りについた。


「...ざいぜ...ん?」
「......スー............」
「寝た..ん?」  


財前はもちろん結合したまま俺の腹の上でうつ伏せになって寝息をたてている。
なんや、やる時は鬼みたいなんに、寝るとやっぱかわええもんやな......
俺は後先のことは何も考えず、財前の月光を浴びた汗で濡れた髪を撫でて眠りについた。



もう一度言うが、後先のことは何も考えず。





(やって、今はお前とこうしていられるんが一番幸せやから。)





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