宝物 | ナノ







ううぅ…

視線が刺さる…

そちらに目を向けない様にして、パクッとケーキを頬張る

味なんて…しないんだけど…

緊張しすぎ?

意識しすぎ?

さっきまで賑やかだったWaveの楽屋は、私と京介くんの二人だけになっていて…



「ねぇ…」

『は、はい…?』



やだ…声が上擦っちゃった…



クスッ



笑われちゃったし…



「いくらメンバーに内緒にしてるからって、俺達…付き合ってるよね…?」

『…う…ん…』



付き合っているとはいえ

そんな関係になって初めてなんだもん、部屋に二人っきりになるの…



「期待してここに来たんじゃないの…?」



期待…?

何の…?



思考回路がストップした私の頭では何も考えられなくて…



「ま、それが睦月ちゃんの可愛いところでもあるんだけど…」

『か、可愛いって…』



可愛いなんて言われ慣れないから、一気に頬が熱くなる

思わず俯いて、またケーキを頬張る

いつの間に近くに来ていたのか、そっと彼の指が私の髪に触れて顔をパッと上げると、切れ長の目に射竦められる

私の心臓がトクトクと主張を始めて、彼に聞こえてしまわないかとハラハラしてしまう



「顔…真っ赤…」



クスクスと笑う彼の声が近くに聞こえて…



「なんだ!睦月ちゃん、イチゴ嫌いなの?」

『え?…だいす…あ…』



大好きなイチゴは最後に食べようと、とっておいたのに…

私の言葉は彼に届くことなく、口に運ばれてしまった

びっくりして、開いた口が塞がらない


だいたい…

私がここに居るのって差し入れのケーキのおすそ分けって理由じゃなかった…?

しかも、上に乗っていたイチゴって…

甘くて、丸くて、大きくて、美味い…有名なブランドイチゴ



「ん?…どうしたの…?」



口をモゴモゴさせながら、不思議そうに私の顔を覗き込む京介くん…

私の視線を辿って、事態を飲み込めたよう…



「あぁ…コレ?…もしかして嫌いじゃなくて、とっておいたの?」



彼の手に残ったのは、一口かじっただけのイチゴ…

黙ったままコクリと頷くと、クスッと笑みをこぼした京介くんは



「そんなに食べたいなら…奪い返せば…?」

『…奪い…返す…?』



おうむ返しをする私を見て、またクスリと笑い、かじったイチゴをまた口に含んだ

カッと頬が熱くなり思わず彼から視線を逸らす



「イチゴ、欲しいんでしょ?」



そうなんだけど…

彼の口元に手を伸ばすと



「ダーメ!手を使うのは反則…」



反則って…

京介くんに伸ばしていた手を掴まれ、彼がくわえたイチゴを私に差し出す

私はあのイチゴが欲しいんだと、自分に言い聞かせながら彼に顔を近付ける

そして…

目を暝り心の中でエイッと掛け声をかけてイチゴにかぶりついた

そっと目を開けると、キスしてないのにそれと同じくらいに近づいた距離に驚く



わっ…



心の中の声は洩れずに私の胸の中で行き場をなくす

京介くんの何も言わない視線が絡み、思わず見とれてしまった

すると、私の後頭部は京介くんの大きな掌に押さえ込まれ…

そのまま、身動きがとれなくなってしまった

まるで、時間が止まったような感覚で、彼の動作がスローモーションのようにも感じる

そっと目を閉じたと思ったら、イチゴを更にかじりほんの少し唇が触れた…



『あ…』



洩れた声はすぐに掻き消される

目の前にある彼の長い睫毛が揺れると、再び視線がぶつかり…

私と京介くんの距離が零になった…

その瞬間、私と京介くんの唇の間にあったイチゴが潰れ、唇の端から滴る汁が私の口から離れ、首筋を流れていく…

思わず目を暝り、彼の服をギュッと握りしめた

口の中に広がる甘い香りと柔らかい果肉…

その中を自由に動く…彼の舌…

気がつけば、イチゴよりも彼のキスと舌の動きに夢中になっていた

果肉を全て奪った後は…私の舌を探し、それまでも絡め取られる

逃げてもすぐに捕まり…

何度も、何度も…彼の唇に噛み付かれ、その度に体が痺れる



『ん…フ…っん…』



洩れてしまう吐息にお互いの蜜までもが混ざり合い…

私の五感全てが彼に支配されてしまう

頭の芯までボーッとしてしまうと、名残惜しむように唇が離される

二人を繋ぐ銀糸が妙にエッチに感じてしまい、そこから視線を外したくて京介くんを見る



『…あ…』



少し潤んだ瞳に驚き、胸がドキンと大きな音を立てた

フッと彼の表情が緩み、優しい笑顔を向けてくれる



「ココにも…イチゴ…」

『…え…?』



彼の舌が私の鎖骨に触れると、体がビクンと跳ねた

チュッとリップ音と共にピリッと小さな痛みが走る



『んっ…』



そのまま首筋を這う舌と唇は私の唇の端へと戻ってきた…

だけど、そのまま京介くんは私から離れる

何となく…キスを期待していた私の心が揺れる



「…期待しちゃった…?」

『…え?』



心を見透かされて、動揺を隠しきれなくて…



「この続きしてもいいんだけどさ、ここ…楽屋…」

『…あ…』



自分が冷静さを失っていた事に唖然としてしまう



「イチゴは美味しかった?」



味なんて最初からわからなかったよ…

目の前の京介くんが気になって…

そんな事言えるはずもなく…



『…う、うん…』

「今度から俺にイチゴを取られたくなかったら、最初に食べた方がいいよ? 俺、好きな物は最初に食べるタイプだし♪」



そんな事…初めて知ったし…



「そうだ♪」



彼が私に囁く



「また、キスしたくなったら…残しててよ、イチゴ♪」



彼の長い指が顎にかかり、クイッと顔を持ち上げられる

遠くから聞こえてくるWaveのメンバーの声に京介くんが私から離れる

そして…

指で自分の鎖骨をトントンと指差し、元居た場所で雑誌を広げた

何となくその行動が気になり、鞄から鏡を取り出して見ると…

彼がつけた小さな赤いシルシがあった

恥ずかしさと愛おしさで頭が混乱する


でも…

京介くんが…好き…

きっと

ううん…絶対に

イチゴよりも…















-end-


title: 空想アリア様


2011.04.02















[main]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -