あなたは偶然彼氏に出くわしました。その時咄嗟にとってしまう行動は?
A.声をかける
B.避ける

「うーん、あたしなら…Aかなあ」
「はい、没収ー」
「ちょっと!何すんのよ」
「見てるこっちが悲しくなるからやめて」
「なっ…」
「あんた彼氏いないでしょーが」

十二月に入り、今年も残り一ヶ月を切ってしまった。寒々とした空の下、街並みはクリスマスに向けた一色。煌びやかなイルミネーションとそれを見るべく予定を立てる男女。
手を繋ぎ合い、寒いと言いながらも楽しそうに談笑する彼らを傍らに、あたし達二人は学校帰りに近くのショッピングセンターに来ている。
雑誌が買いたいと言った友達のために、洋服を見るのは後回しにして先に本屋へと来ていたのだが、あたしが手にとった雑誌の一角には流行りなのかは分からない心理テストが載っていた。
そのタイトルは「あなたは浮気をするタイプ?」だ。

「だって…仕方ないじゃない!あたし達女子高なんだから!」
「いやいや、あんたにその台詞は言って欲しくないわ」

友達の田中がジト目で見ながら言ってきた。確かに、あたしは愚かだった。
女子高って何かモテそうじゃない?と、浅はかな気持ちのみで高校受験を受けた。見事合格出来たまでは良いのだが、そんな期待を裏切るように現在高校三年の冬まで、告白された回数はゼロだ。
ちなみにボブヘア田中は中学から女子校らしい。と言うかこの学校は小中高大まであるらしい。入ってから田中に聞かされた知識である。
そんなことはどうでも良くて、いや良くないけど。今一番大事なのはあと二十日後に来てしまうヤツだ。
ジングルベルを歌いたくなるヤツであってけして田中の不審な物を見る目つきではない。

「一応言っとくけど、あんた声に出てるよ」
「うん、田中分かったよ」
「もの分かり良すぎだから、少しは恥と言うものを知って」
「恥なんて捨ててなんぼよ田中」
「開き直るのもどうかと思うけど…」
「あー!田中ちゃんだ!」
「ん…?」

ちょっと低めな、でも気持ち高めな声が何処からか聞こえてくる。視線を声の方へ向ければズラリと勢揃いの如くいる男性陣数名。
え、田中の知り合い?田中!田中!田中ああああ!

「分かったから、叫ぶの止めて。周りから白い目で見られてるから。彼ら引いてるから」

すると田中は簡単に彼らとの関係を説明し始めた。ちょっと低めだけど気持ち高めな彼はお隣に住む芥川くんと言うらしい。そして他は彼のお仲間さん達。何でもテニス部だったとか。
そんな彼らが田中と会うのは今日で二回目。以前彼らが芥川くん家に遊びに来た時偶然出会ったらしい。
田中め、あたしを差し置いて良い思いをしていたとは…。あたしのお隣さんなんて素性不明な人が住んでいるのに…!

「ねえ、田中ちゃん…彼女、面白い子だね」
「………うん、そう、面白いのよ。で、あんたは何してるの?こんな勢揃いして」
「買い出しだよー!」
「買い出し…?」
「うん。今日はパーティーなんだ!」

田中が、田中が輝いて見える。
あたしなんて異性と話すのはお父さんと弟と隣の隣の家の来年小学校に上がるマコトくんだけなのに。なのに田中は今こうやって同学年の彼らと会話をしている。
あたしの同学年なんて中学三年の奴らで止まっていると言うのに。元気かな…卒業式以来一回も会ってないな…。

「どうする?」
「え、何が?」
「聞いてなかった?あたしらもどうかって、誕生日パーティーに」
「も…もちろん!行きますとも!」

こうしてあたし達は偶然出会った芥川くん率いる数名と彼らの学校へと向かったのである。
何でも今日は後輩の誕生日らしく、本人には内緒でその後輩が部長を務める部活に乱入してサプライズパーティーを行うと。そんなパーティーにあたし達も参加して良いのか、ちょっと気が引けるけど人数が多い方が楽しいから、という芥川の言い分に何となく納得した。
そしてあたしが久しぶりに交わす異性との会話に戸惑っている間に到着したようだ、彼らの学校に。

「え、でか!」

大きな門に大きな敷地、そして校舎。あたし達の学校も私立だから公立と比べれば大きい方だけど、まさかこんなにも大きな学校があったとは…氷帝学園恐るべし。

「じゃあ俺ら準備してるから適当に見学しててー!この道真っ直ぐ行けばテニスコートだから!」

そう言って芥川くん以下数名は校舎の方へと歩いて行った。あたし達は芥川くんの言う通り、テニスコートへの道を歩く。

「田中…」
「なに?」
「グッジョブ」
「はいはい」

田中愛してる!と言ったら気持ち悪いから近付くなと一刀両断された。

「そういやさー今いるってことだよね」
「ああ、誕生日の」
「部長くん。名前なんだっけ?」
「ええっと、確か…」
「あ、思い出した!日吉くんだ!」
「なんですか」
「え?」

吃驚して後ろを向けば、迷惑そうな顔をした、ユニフォームの上にジャージを羽織りラケットを持つ人がいた。綺麗に揃えられた髪は、どこかあの食べ物を連想せざるを得ない。

「えっと、何か…?」
「それは俺の台詞なんですが」
「ええ?」
「さっき言いましたよね、日吉って」
「あ、はい」
「俺が日吉ですけど、何か?」
「え、えっと…た、田中ああ!っていないし!」
「もう一人なら電話が来て何処かへ行きましたが」
「えええ!田中の馬鹿!」

目の前には怪訝な表情であたしを見る芥川くんの後輩、日吉くん。サプライズパーティーならば今ここであたしがネタバラしをするわけにはいかず、かと言って他に良い言葉も思いつかない。
芥川くんに君を祝うパーティーに誘われたんだよ、なんて言ったらダメだ。だけど、そしたら何て説明しようか。このまま不審に思われて学校から追い出されるのは嫌だし、何よりせっかく同学年の異性と話すチャンスを逃すのは嫌だ、絶対に嫌だ。
あたしの脳よ、フル回転だフル回転…と必死に普段使わないような脳味噌まで使って言葉を繋ぐ。

「あの、日吉くん?田中が君の先輩の芥川くんと知り合いでね、あたしは田中の友達で、さっき偶然芥川くんに出会ったわけですよ」
「はあ、芥川さんの…で?」
「テニスがね、見たいなあってなってね。そしたら此処に来れば見れるからって、ね?」
「はあ、それで俺の名前を?」
「そうなのよ、芥川くんが日吉くんを訪ねてって…」

あたしの心臓はドキドキバクバクで今にも破裂しそうな程である。
未だ日吉くんの怪しい者を見る目付きは変わらないが、芥川くんの名前を聞いて最初よりは些か柔らかげな表情になった気もしなくもない。
日吉くんは何か考えるような素振りを見せると不意に、本当に不意打ちの如く言葉を発した。

「もしかしてあんた、芥川さんに何か頼まれてませんか?」
「え、な、なんで?」
「挙動不審すぎですし、俺を訪ねる意味が分からない。テニスが見たいなら勝手に見ればいいでしょう。あの人達のように」

そう言って指差す方向に顔を向ければ何と見学人の多いことか。
他校までいる、普通にいる。しかも女の子ばっか。

「あ、いやー…」

田中ああああ!田中助けて早く…!
あたしはひたすら心の中で田中を呼び続けた。
もうあたしにはこれ以上嘘は付けないから、早く田中よ田中…。
そんな願いが通じたのかマナーモードにしていなかった携帯が着信音を鳴らす。ビクン、と心臓が飛び跳ねる。もたつく手でバックから取り出すと同時に音が切れた。
数秒で切れたと言うことは電話ではなく、メール。田中田中と念仏の如く唱えながらメールを開けば差出人に田中の文字。

「ひ、日吉くん!ちょっと来て!」
「は?」

無理矢理手を引っ張って体育館へと向かった。田中のメールの通り、真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がって…。
少し息切れがして来た頃に大きな建物が見え、これが体育館だと確信する。

「何なんですか、いきなり」
「い、いいから早く!」

扉を乱雑に開け、またもや無理矢理日吉くんの腕を引っ張り中へと押し込む。
すると、中から大きな音と共に沢山の笑顔が溢れ出た。

「日吉誕生日おめでとう!」

盛大な拍手に、大量のクラッカー。芥川くん達を筆頭にジャージ姿の人までいて、それはパーティーというに相応しい規模だった。

「…………」
「あ、あの日吉くん…?」

慌てて掴んでいた手を離し、謝ろうと俯く彼を下から覗けば、そこには真っ赤に染まりに染まった顔。
何故だがあたしまで顔が熱くなって、咄嗟に田中を探して目を泳がす。
だけど耳はしっかり、日吉くんの言葉を捉えていた。

「……ありがとうございます」


いつかの心理テストに載ってた。
あなたの恋の始まり方は?って、あたしの恋の始まり方は、至って単純だった。



Cのあなたは突然深い恋に落ちるでしょう


「日吉くん、好きです」
「今日初めて会ったのですが」

そしてあたしはいつだって直球勝負。


(Happy birthday Hiyoshi Wakashi)

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