文豪短編 | ナノ
 逃げた先の幸福と不幸

※もしも、一年前の年齢でマフィア時代の太宰さんに会ってたらの話
※続くようで多分続かない




人生は重要な選択肢の連続、と何かの漫画の敵キャラのおっさんが云っていた。ホントそうだと思う。私の人生、正に重要な選択を迫られる機会が多かった。凡てが正しかったとは云えない、凡てが間違っていたとは云えない。けど、今の状況は確実に―――



「選択間違えたあああああああああぁ!!!」



至る所から鳴り響く警報に人の声。「捕虜が逃げたぞ!」「小娘とは云え、相手は異能者だ!気を抜くな!」「幹部の太宰さんに渡せば金一封が貰えるぞ!」「え?俺中原さんに引き渡せって云われたんだが…」兎に角色んな人…っていうか、マフィア構成員の方々が地下牢に繋がれ逃げ出した私を捕まえるのに必死になってます。

横浜凶悪犯罪異能組織ポートマフィア。昨日、大家さんにホテルのバイキングの割引券一枚余ったからあげると其のホテルまで行った。のが、私の運の尽き。ホテルへの道中、路地を使えば回り道だと路地を歩いていると見てしまったのだ。マフィアが子供の遺体を抱いた女性の遺体を遺棄するのを…

隠れようにも、路地に隠れられる場所なんかなく、当然の様に私はマフィアに見つかり。逃げた。矢張り、当然の如くマフィアは追い掛けた。漸く手に入れた自由を三年で手放すのは嫌だ。異能力を使わずとも逃げ切れる。自分の身体能力には自身があった。マフィアが撃つ弾丸の雨を走って避けている最中、表の道に出るも普段人通りが少ない為助けを求める事も叶わず、内心舌打ちしつつ取り敢えず逃げる。逃げた先の幸福を手に入れた私だけど、今逃げている先にあるものは何かと考えると不安になる。

未だ追ってくるマフィアの方々。追手は後方だけでなく、前方からも。其方も機関銃を装備。立ち止まり、呼吸を整える。すると、前の方から一人のお兄さんが現れた。



『やあ、元気な御嬢さん。中々逃げ足が速いね。スポーツでもしているのかな』



癖のある黒髪に整った秀麗な顔立ちに目立つ頸の包帯。あ、頭や左頬にも包帯が。よく見ると手にも。



『私の顔に何か付いているかい?』



私がジロジロと見たのがいけなかった。適当な言い訳を考えないと。



『お兄さんもマフィアなのかなって思って』

『そうだね。私もマフィアだよ。君を追う様指示したのは私だし』

『…見逃してほしいなあ、まだ高校二年生ですよ?青春真っ只中ですよ』

『其れは楽しそうだね。私の青春時代は無に等しい。ずっとマフィアにいるから』



『因みに私君の一つ上』と付け加えられ、口の中の水分が無くなった。一つ歳上の人が屈強な黒服達を動かしていたの?マフィアとは思えない(包帯を除くと)好青年なお兄さんの黒瞳が急に冷えた。『君には悪いが来てもらう。手荒な真似はしたくないから、大人しくして』お兄さんが云うと黒服達は機関銃を下ろし、数人が此方に近付く。

…今、此処にいるのは私とお兄さん達しかいない。普段から人通りの少ない道。監視カメラもなにもない。…なら、いいよね?



『さあ、来い』



―――黒服の一人が夏見の腕を掴んだ瞬間、男は炎に包まれた。突然の出来事に驚く間もなく、包帯を巻いた男以外全員が炎に呑まれ息絶えていく。残るは包帯を巻いた青年一人。彼は夏見の異能力を興味深そうに見つめ、感嘆の声を漏らした。



『へえ…此れは凄い。炎の異能力者か。初めて見た』

『残るはお兄さん一人です。…見逃して、くれませんか?』



初めて会った筈なのに、ずっと前から会っていた様な此の感覚は何なのか。彼を殺したくない。眉尻を下げ、何とか見逃してほしいと頼む夏見に青年は「御免ね」と一言謝った。其の直後―――夏見の後頭部に強い衝撃が走った。何が起きたのか、考える間もなく意識を手放した。




…そして、現状に至る。

追っ手から必死に逃げる最中、時に相手を蹴り殴り、時に相手の身体の一部を燃やしたりして兎に角逃げ回っていた夏見だったが…



「捕まえた」

「きゃっ」



遂に誰かに捕まった。しかも声に覚えがあった。顔を上げると「やあ、可愛い女子高生ちゃん」昨日出会った彼の青年が見下ろしていた。「君には聞きたい事が沢山ある。痛い目に逢わしたくないから、大人しくしててね?」拒否権はない。そう目が物語っていた。素直に頷くしかない夏見はコクりと頷き、黙って青年に手を引かれた。



「そう緊張しないで。君が素直に対応してくれれば、何もしないよ。
あ、そうだ、私まだ君の名前知らないや。名前を教えてくれる?」

「あ、はい。雪平…雪平夏見です。あの、お兄さんの名前知りたいです」

「私の?私は太宰。太宰治だよ。宜しくね、夏見ちゃん」



太宰の手によって連れて行かれるのは、幸福か不幸か。



―――そんなもの、誰に聞かなくても分かる事。マフィアに捕まった先にあるのは不幸を通り越した絶望だけ。


END

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