文豪短編 | ナノ
 君にとっての最初

※『ごめんね』の続き



肌触りの良いフカフカの寝台の上。夏見を後ろから抱き締め、温かいねと云いながら頭の上に顎を置く太宰。彼女を軽い監禁状態にしてそれなりに日数が過ぎた。まだ一度も外に出せていない。会わせたい奴にも会わせてない。外に出たがってはいるが毎日退屈しない様欲しい物は何でも与えた。と云っても、漫画や雑誌、小説ぐらいだが。太宰の仕事が無い時は出来るだけ一緒にいて構っている。



「子供体温とでも云いたいんですか」

「事実そうじゃないの?」

「…否定はしません」



ぷうっと頬を膨らませ、頭上で意地悪に笑んでいるあろう太宰のお腹を肘で突く。痛いよと抗議が降りかかるが全然力を入れてないのだから痛い筈が無い。窓から見える空は黒一色。今日は曇りな為星一つ見えない。



「今日の創作料理の感想ください」

「感想って…。何時も思うけど夏見ちゃんの作る麪は如何して毎回寺や神社の形をしているのかな?」



本日の麪は法隆寺の形をした麪。有り難みがあり過ぎて違う意味で食欲が消える麪であった。



「じゃあ、今度は自由の女神像にします!」

「まあ、普通の形じゃあつまらないし、面白いから良いけどね。でも、味は美味しいよ。今度、私の作った水炊きも食べてみてよ」

「厭です」



太宰の作った水炊きは食べた後の記憶が吹っ飛ぶ。本人に聞いても怪しげな表情を浮かべるだけで答えてくれない。何を入れたかも訊いても同じで。二度と太宰の作った料理は食べまいと心に固く誓ったのだ。う〜んと身体を伸ばし、太宰に寄り掛かった夏見は大きな欠伸をした。



「眠い…」

「昼間沢山寝ていた筈だけど?寝る子は育つと云うけど、夏見ちゃん全然育ってないよね」

「余計なお世話ですう!仕方無いじゃないですか、何もしてなくても眠くなるんですよ」

「睡眠は人間の三大欲求の一つだからね。無理はしなくていいよ。私も夏見の体温を貰ってたら眠くなったし…」



夏見の身体を抱き上げ、二人で寝ても十分大きな寝台の上に寝転がった。隣に夏見を寝かせ、髪を撫でる。夏見を外に出さない―――出せない―――のは他の誰かに存在を知られれば、異国の敵異能組織の首領の娘だ、只では済まない。太宰に自分を匿い保護する利益は無いと思っている夏見だが…



「お休み…夏見ちゃん」

「ん…お休みなさい…」

「明日は一緒にお風呂でも入ろっか」

「髪の毛乾かしてくれるなら……」



眠気に逆らえず、うとうととしていた意識はそのまま奥底へ沈んだ。

部屋に居させて二週間ぐらい経った頃か、仕事帰りは厭でも血の臭いがする為夏見に会う前にお風呂に入っていたのだが其の日は運悪く、丁度風呂上がりの夏見と鉢合わせた。着替える直前だったのか、身体に巻いていたタオルを取ろうとしている所に来てしまった。バッチリと裸を目撃され、全身を真っ赤に染めて慌ててタオルで身を隠した。大声を出せば誰かが来るかもしれないから咄嗟に口を押さえた夏見。



『す、すいません、もう少しだけ待ってもらっていいですか…』

『夏見ちゃん…一緒に入る?』

『厭ですよ…!幾ら太宰さんでも其れは厭です!』

『良いじゃない。此れを機に距離を縮めるのも悪くない。…ね?』

『うっ…』



口調は柔らかいのに目が拒否権は無いと圧倒的な威圧を放っていた。此の人は偶にこうして怖い部分を見せてくる。涙目になりつつも『わ…分かりました…』と弱々しい声で受け入れた。湯冷めさせては駄目だからとまた浴室に戻され、湯船に下ろされると本来の髪を髪留めで一つに纏められ頭を一撫でされた後太宰は一旦浴室から出た。浴槽の中で体育座りをして下を向いていると太宰が戻ってきた。風呂に入るのだから勿論服は着ていない。余計に顔を上げる事は出来ず、下を見続けていると水面が激しく揺れ、後ろから抱き上げられまた湯船に戻るとお腹に腕を回された。背中越しから伝わる温盛と風呂の温盛のせいで段々と思考が鈍ってくる。一つ上の男と風呂に入った経験が無い所か、他人と肌を触れ合う程近い距離近寄った事すらない。



『夏見ちゃん耳まで真っ赤だね。慣れてないのかい』

『わ、私その、色仕掛けの訓練とかされませんでしたし、誰かと一緒にお風呂入った事もないですし…』

『へえー、じゃあ私が初めての人間と云う訳だ』



嬉しいなあと笑う太宰に益々顔を赤くし、此れ以上赤くなったら逆上せてしまうかもしれない。早く此処から脱出できる瞬間が来いと強く願った。



「彼の時の夏見ちゃん可愛かったよ。同時に私は歓喜した。君にとっての最初を沢山私が頂いているのだから…」



無防備に寝顔を晒す夏見の頭の天辺に口付けを一つ落とし、次に貰う最初予定の場所に指を置いた。



―――初めてのキスの次に貰う初めては勿論…君の………。



End

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