文豪短編 | ナノ
 ごめんね

※『深入りしたい合図』続編



太宰に捕まり部屋に軟禁されて早一ヶ月

此処の生活にも大分慣れた。学校は太宰が何と云ったのか知らないが自主退学となり、住んでいたアパートはそのままにしてくれているみたいだ。夏見の一日の過ごし方は創作料理を作るか本を読むか遊ぶか寝るだけ。最近は忙しくないのか、太宰に絡まれて自分の時間が取れていない。彼女が部屋に居る事は太宰以外誰も知らない。一ヶ月前会わせたい奴が居ると云っておきながら色々事情が重なり会わせて貰えず。若くして幹部の座に座る太宰だ、忙しいのは誰が見ても分かる。我が儘は云わず、限られた空間で如何楽しく過ごすかが大事なのだ、と自分を納得させ夏見は寝台に腰掛け、膝上に乗せて後ろから抱き締める太宰に話し掛けた。



「ねえ太宰さん」

「んー?」

「偶には外に出たいと云えば怒りますか?」

「怒らないよ。唯、安易に君を外に出して誰かに見つかったら大変だからね。何時かは出してあげられるから我慢して」



其れはポートマフィアの幹部にこんなちんちくりんの女が居たと噂されれば汚点になるからか?と考えるが太宰は夏見の思考を読み取ったのか「違うよ」と頭の天辺に口付けを落とした。



「夏見ちゃんみたいな可愛い女の子を誰にも見せたくないの。其れに、君が例の敵組織の頭の娘だと知られれば只では済まない」

「…ですよね」



太宰と初めて会った時目撃してしまった二つの遺体…殺されたのは、今ポートマフィアと敵対する異国のマフィアの首領の妻と子供だったらしい。但し、子供の方は太宰が用意した偽物。本物の子供は今―――太宰の腕の中に居る。



「…何しに来たんですかね、って云いたいですけど死んでた女の人私の母親じゃないですよ。別人です」

「君がそう思うなら思えばいい」

「………」



もう喋りたくないとばかりに太宰の服に顔を押し付けた。ギュウギュウ押し付け頭を擦り付けた。太宰は夏見を同じぐらい抱き締め頭を撫でた。一ヶ月前拾った少女の過去を徹底的に洗い出したものと彼女から聞き出した情報に些かの違いがあるとは云え、夏見は確かに伊太利亜のマフィアの首領の娘。で、太宰が殺した女性は夏見の母親。然し、この事を話した時の夏見の反応は―――



『はあ、其れが如何したんですか』



淡白だった。驚く程淡白だった。太宰ですら面食らう程。余程母親が嫌いだったのか、まあ、昔話を聞いた時の表情は決して良いものじゃなかった。やれやれと肩を竦め、君はそういう子で良いよと云った。まだ詳しくは知らない女の子を更に知るには、



「夏見ちゃん」

「はい」

「もう少し待ってね。もう少ししたら、外に出て逢引でもしよう。そして、君に会わせたい私の友人を紹介するよ」



本当はもっと早くに会わせてあげたかったんだけどねとは心の中で云い、段々と襲ってきた眠気に素直に従った。

夏見を抱き枕にして…。



End

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