翌日になって驚いた事が二つあった。四日前、首藤松美に無理矢理連れられたホテルパラダイスが爆破されていたのだ。犯人は、マフィアにしては珍しく堂々と動くのが好きなポートマフィア構成員梶井基次郎。横浜では有名な爆弾魔である。ホテルに居た客は全員死亡。二つ目は、首藤松美の父親も同じホテルに居て死亡した事。然も警察の調査によると、彼だけ殺された形跡があったとされ、ホテルを爆破したのは彼の殺人を隠す為だったのでは?というのが警察の見解であった。

吃驚たまげたと食パンを食べる夏見は朝のニュース番組を見て思った。そんな事になっていたなんて。そしてニュースは、もう一つの大きな事件を取り上げた。嘗て、ポートマフィアと一、二を争った壟忱組跡地で連続婦女誘拐事件の黒幕ー伊太利亜マフィア“死の幽鬼”の首領含め構成員全員が死んでいた、というもの。此方はポートマフィアの報復に遭ったと見て調査されるのだとか。強ち間違ってはない。

休日の二日間、或る意味で大変な二日間だった。土曜日中原が連れて行ってくれたのは横浜で一番大きいと思われるショッピングモールだった。何でも首領と何時も一緒にいるお嬢の誕生日が迫っているらしく、プレゼントを探しているのだが小さな女の子が欲しがる物なんて長年マフィアに身を置き男である中原には難しく、其処で白羽の矢が立ったのが夏見だった。…が、夏見の幼少期も中原と同じな上普通の女の子の感覚が分からなくて此方も何をあげれば喜ぶか悩んだ。悩みに悩んだ結果、最近子供達に大人気のテディベアーをプレゼントする事になった。終わった後は礼として食事を御馳走になり、家に着いた頃には時刻は既に20時を過ぎていて。別れる間際、昨日以上の熱烈なキスをプレゼントされ、キスをした本人は上機嫌で自身の部屋に戻り、された本人は暫く呆然として、フラフラと部屋へ戻るなり寝室のベッドにダイブした。

翌日の日曜日では、また彼の草原に足を運んだ。其処には既に太宰がいた。報告書等は凡て国木田に押し付けて逃げてきたのだと宣う太宰の脳天に国木田の手帳の角をぶつけてやりたくなった。探偵社で一番の苦労人は国木田で間違いない。太宰と二人組(コンビ)を組んでいるのだから。ちょこんと隣に座った直後、草原の上で寝転がっていた太宰に抱き締められ、昨日此処でされた以上の濃厚なキスを貰った。文句を云う気力も無く、呼吸を整える事しか出来ない夏見に太宰はこう囁いた。「ちょっとは警戒心を持たないと何度でもされちゃうよ?」「だ…太宰さんぐらいですっ(嘘だけど…)」「其れは分からないよ?だって、夏見ちゃんってモテるから」その内キス以上の事をされそうで一瞬恐怖を抱いたが、若しもそうなりそうになった時は相手を問答無用で燃やしてしまえばいい。自己解決した夏見は知らないだろうが、太宰と中原には通用しない。二人の異能がどんな能力か知らない為に。太宰にキスをされた後は、夕方までのんびりと草原で太宰と寝転がっていた。

太宰と中原の急な変化に夏見自身訳が…分からないとは云わないが、理解出来なかった。自身の容姿に興味はないが、男性なら誰しもちんちくりんよりもう少し背の高い女性を求める筈。二人共、中身は取り敢えず見目はかなり良い。女性の扱いにも長けていそうだから選り取り見取りだろう。



「…やめよやめよ」



考えるだけ時間の無駄だし疲れるし関係…なくはないのかもしれない。制服に着替えた姿で鞄を持ち、食パンを口にくわえたまま外に出た。鍵をしっかりと閉め、スカートのポケットに仕舞ってから鍍金の剥がれた階段を早足で降りた。







学校へ行く途中、人一人いない公園に立ち寄った。時間はまだ十分ある。「茶々ー!」と何度か呼んでいると一匹の猫が夏見の足元に来た。引っ越して来た時から公園に居る野良猫の茶々。黒猫なのに名前を茶々にした理由は何だったか。忘れた。夏見はしゃがんで茶々の頭を撫でてやった。



「よしよし。今度かりかり持ってくるからね」

「んなー」



バイバイと茶々に別れを告げて夏見は改めて学校へ行こうと立ち上がると前方から見慣れた男性が歩いてきた。和服姿の銀髪の男性に気付いた夏見は「あ、おはようございます社長さん」と声を掛けた。社長と呼ばれた男性は短く返した。男性が近付いたと同時に茶々は何処かへ行ってしまった。少々残念そうにする男性だが袖に手を入れ、取り出した物を夏見に渡した。スーパーでは売ってなさそうな高級感漂う煮干である。



「今度、渡してほしい」

「はい。任せてください」

「ああ。所で、学校はいいのか?」

「まだ時間はありますから、大丈夫です」

「そうか」



厳格な印象が猫にも伝わって怖がって逃げてしまうのか。確かに男性は一見厳しそうではあるが、優しい所があるのを知っている。そして、其の器量の良さや人を見る目も確かなもの。男性の名は福沢諭吉。武装探偵社の社長。最初会った時は怖い人なのかと緊張したが接していく内に緊張は徐々に解け、今ではこうして普通に話せる。



「ふふ…」



急に笑い出したからか、怪訝な瞳で見られ深い意味は無いですと一言云い、「社長さんや社員の人達と居るのはやっぱり楽しいなあって思って」有りの儘の気持ちを告げれば、また同じ言葉で返された。違ったのは、普段から鋭い瞳が和らげ優しくなった事ぐらい。

時計に目をやれば、そろそろ時間が危なく、名残惜しげに行ってきますと告げると早足で公園を出た。

公園を出て三分ぐらい経った辺りで…



「…」

「…」



一人の男性と擦れ違った。黒い外套を来た細身の男性の顔に覚えがあったが何処で見たかが思い出せない。其れよりも、夏見が一番気になったのは男性から臭った硝煙と血の臭いだ。マフィア関係の人だろうと決めつけ、既に現幹部と元幹部と知り合っているのにマフィアには関わりたくないという、矛盾した思考で男性のことを頭の隅に追いやり学校へ向かう。夏見の前方から「せんぱーい!待ってください!」と黒のパンツスーツを着た金髪の女性が走って男性を追い掛けて行った。



「大変だね、後輩は」







道中それからも、中年の白衣を着た男性が子供とはぐれたのか「エリスちゃーん!!」と泣き叫んでいたし、側に居た花魁風の赤髪女性が「情けない声を出すでない」と男性を叱咤していた。リンタロウからよく出る話題に同じ名前の少女が出てくるが真逆同じ人物ではないだろうと通行人を装って素通りした。学校の外観が見えた辺りまで来ると今度は探偵社の谷崎と与謝野が夏見が通う高校に入って行った。



「何か事件でもあったのかな」



気になる。好奇心を抑えられず、夏見は「谷崎さーん!与謝野せんせーい!」と二人を呼んだ。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -