最上階の五階に到着した直後、漸く幹部級の敵に遭遇した。黒服に身を包んだブロンドの三人の顔が同じ男達。確か第四夫人の子供は三つ子だった筈と記憶から情報を引き出した夏見の隣ー中原は、三人が塞ぐ道の最奥の扉を見据え不敵に笑う。ドンは奥の部屋で自分と太宰の首、そして娘を待ち詫びている。


「日本人は小さいな。これなら一捻りで潰せそうだ」

「潰したら父上に見てもらえないだろ。首だけはちゃんと残せよ」

「エルヴィアは生け捕りにしろ。歯向かうなら半殺し程度は許すと父上は云っていた」


右から順番に話す三つ子の区別がつかない。夏見は話にしか聞いたことのない三つ子を初めて目にし、頭を抱えたくなったがこれからも付き合いが長いだろう知人二人を死なせる訳にはいかなくて、悠長にどちらがどちらに行くと会話を繰り広げる三人の目の前に火炎の球体を出現させた。赤く燃える球体は大きさを増して三人を巻き込もうとしたが人間とは思えぬ俊敏さで避けた。夏見が火炎の球体を消すと二人が夏見と中原の背後にいた。風を切る音がした。其れと同時に夏見は身体を低くし、中原は左に身体を避け背後にいた男を右足で蹴り飛ばせば、床を蹴ってもう一人の腹に蹴りを決め壁を破壊し外へ放り出した。三人目は?と奥の扉の方に目を向けると最後の一人が自分達に機関銃を向けていた。中原が気付いたと同時に発射されるが弾丸の雨が向かって来る事はなかった。炎が男を一瞬にして飲み込んだ。苦しみ絶叫する男を夏見が蹴り窓から外へ放り出した。



「ふう…危ない危ない」

「へえ、便利な能力だな」

「でしょ?目を動かすだけで炎を操れるんですから」



そんな単純な話じゃない。炎を出現させる条件は必要なく、何時でも何処でも炎を出現できる異能は十分脅威となり、ぼそりと絶対に使いたくないのもありますけどね…と零した夏見から察するにまだ他の用途があるらしい。さっきの動きといい、矢張マフィアだった頃の感覚は残っているのだろうかマフィアとして申し分ない。ポートマフィアに加われば強大な力となる。敵組織を壊滅させると同時にもう一つ首領から任務を言い渡されていた。

“幽鬼の貴婦人をポートマフィアに連れて帰る事”

但し、絶対ではない。幽鬼の貴婦人がいなければ、既に死んでいれば別にいい。

然し、幽鬼の貴婦人は今此処にいる。直ぐ近くに…



「中原さん!早く行きましょう!ドンは奥の部屋です!」



…陽の届く暖かい世界をずっと渇望して、漸く手に入れた居場所を奪いたくはない。なのに、血と欲望が渦巻く闇の世界にまた連れ戻し常に手元に置いておくのも悪くない自分がいる。…否、他の誰かと仲良くなる度に誰かと過ごして楽しかったと自分に話しては嬉しそうに笑う姿が胸の奥の感情を燻った。無理矢理此方側に引き入れるのは簡単だが隣人という関係に満足しているのも確かだ。

―――なら、



「おーい、中原さ…」



何度呼んでも反応しない中原の顔を覗き込んだら腕を掴まれ、驚く間もなく唇を奪われた。同級生は初めてのキスは甘い味がすると云っていたが夏見の初めてのキスは血と硝煙と仄かに香水の香りが鼻孔を擽っただけで味は何はしなかった。硬直して動かない夏見にもう一度キスをした中原は「はっ、傑作だなその間抜け面」と愉しげに笑う。数度瞬きをした後、やっと意識が帰ってきた。



「な、ななな、何してんですかあああああ!!?しかも敵地のど真ん中で!!?頭大丈夫ですか!!?」



顔を真っ赤にして中原に怒りつつ、以前太宰にも似た…否、キス以前に押し倒され危うく食われかけた経験があり、お互い嫌ってそうではあるが似た者同士なのかもしれない。キス一つでギャーギャー騒ぐ夏見を終始意地の悪い表情で笑っていた中原だが、改めて奥の扉を見やり夏見を黙らせ扉を蹴飛ばした。



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