アーモンドの舌打ち



「やあおはようミス苗字、寝癖ついてるよ」

朝、好き放題にはねた髪の毛を触られそうになったので顔をそらして回避した。

「こんにちはミス苗字、いい天気だね」

昼、寝たふりをしてやり過ごした。

「こんばんはミス苗字、隣に座っても?」



いいわけがない。



なんて言えないし無視もできない。談話室のすみに固まってこっちをものすごい目で睨みつけてくるお姉さんたちがこわくて。仕方なしに真ん中を陣取っていたソファの一番はしっこに寄れるだけ寄って距離をとった。
なぜだかあの日以来トム・リドルに目をつけられてしまってすごく面倒くさい。
顔を見ずとも嫌がるわたしをからかって楽しんでいることくらいすぐにわかった。私の目には、彼がにこにこじゃなくてにやにやして見えるから。

「あのさ」
「なんだい?」

さも当然のごとく隣で課題を片付ける羽ペンの動きを止めないまま返事をするトム・リドル。遠まわしな言い方なんてわたしの性に合わないため単刀直入にうかがってみることにした。

「一体なにを考えてるのか聞いても?」
「なにってそんな、僕はただ」
「どうしてわたしに構うんですかね」

菓子袋に手をつっ込んで中身を探りながら言うと、彼は少しだけ考えたあとまた美しいお顔でにっこりと(わたしにはにやりに見える)笑いながら突然わたしの手を取って、


「そんなに警戒しないでよ。僕はただきみと仲良くなりたいだけなんだ」


キャラメルポップコーンを吹き出すかと思った。リドル親衛隊のお姉さんたちがキャーと悲鳴を上げ、まわりのスリザリン生も興味津々の目でこっちを注目している。やめてください、彼とわたしなんの関係もありませんから!今までもこれからもただの真っ赤な他人ですから!だからお願いわたしを見ないで!!
叫びだしたいのをぐっと我慢しながら口の中のものをなんとか飲み込み、掴まれていた手を無理矢理引き剥がしてソファから立ち上がった。もういやだ一刻も早くここから立ち去ろう。

「おやすみミス苗字」
「 (できることなら永遠に) おやすみミスターリドル」

談話室から寮へ戻る階段へ向かいながらちらっと後ろを振り返る。あのやろう、さりげなくローブで私の手を握った方の手拭きやがりましたよ。
・・・なるほどキャラメルでベタベタしてたからか。


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