けだるげな産声



むかあしむかしあるところに、名前というとってもとっても可愛かったらよかったのになと常々思っていた普通の女がおりまして今彼女はなんと絶賛組み分け中でございました。
もうなんでもいいのだけどぐり・・・なんとかでもすり・・・なんとかでもその他もろもろでも。

嗚呼、頭にのせられたこ汚らしい帽子さまよ。うんうん唸るのはその辺でお止めになってとっとと適当な寮にわたしめをぶち込んでください。もはや誰もわたしの組み分けの姿なんぞ見ておりません、みんな目の前の豪勢な料理しか眼中になく無我夢中で貪り食らっていて切なくて仕方ありません。(そりゃ一時間近くも待たされたらそうなるわ)

日本の魔法学校に馴染めず浮いていたわたしをなぜだか気に入り、ディペット校長先生を説得して編入手続きを取りここへ連れてきて下さった偉大なる白ひげ魔法使いアルバス・ダンブルドア先生閣下ですらプディングに夢中なのです。
空腹の状態で美味しそうなごちそうを食べている人間を目の当たりにしながら、延々頭の上の彼が発している老人の就寝中のような歯軋りと唸り声を聞かなければならないなんてあんまりだ、ひど過ぎる。ていうかほんとに寝ているんじゃないだろうなこのボロ帽子は。
ゆるゆる思考しながらあくびをした瞬間頭の上から憤慨した声が聞こえた。

『誰がボロ帽子だね。私は確かに新しくはないが代々このホグワーツ魔法魔術学校で生徒一人一人の資質を見事に見抜き組み分けを行ってきた由緒正しきうんたらかんたら』

年寄りとは総じて話が長いものだ。適当に相槌をうっておくことにする。

『ああ!なんと嘆かわしい!わざわざ東洋からダンブルドアがつれて来た魔女だというからどんな人間かと思えば、ただの失礼な小娘だとはいやはやなんとかかんとか』

なんて面倒な帽子なんだ、考えていることまでバレるとは。いきなり頭のなかをのぞき見する帽子といい全寮制の相部屋といい、ホグワーツでは生徒のプライバシーはいまいち尊重されないのかもしれない。
組み分けを中断してわたしへの文句をひたすらつらねている帽子の言葉は全部聞き流すことに決めてから、暇つぶしに生徒たちの顔ぶれを眺めておくことにする。彼らはわたしを全く見てくれないけどな。

正面向かって左からグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクローと視線を移していき、最後にスリザリンのテーブルを見た時、ひとりの男子生徒と目が合った。
彼は手に持ったフォークを動かすこともなくわたしと目を合わせていたが、すぐに前方と両隣の女子生徒に話しかけられてにこやかに応対し始める。両手に花とはいいご身分だぜ、と思わず舌打ちしそうになった。八つ当たりだいかんいかん、腹が減って気が立っているようだ。
先ほどの男子生徒のまわりでしきりに騒ぎきゃあきゃあと可愛らしい声で笑う女の子たち。ううむ、なんだかやかましそうな寮だな。スリザリンって陰湿っぽい名前から想像するに絶対談話室は暗くてじめじめしてそうだからできればわたしは暖かくて明るい他の寮がい 『スリザリン!!』 まじか。

・・・このやろう、ボロ帽子って言ったこと根に持ってやがる。

よっこいしょと重たい腰をようやく上げてボロ帽子を若干乱暴に椅子に置き、(デリケートなんだもう少し丁寧に!という叫び声は無視) 長い長いテーブルの空いた一番端の席に腰を下ろしたところで、晴れてホグワーツ魔法魔術学校なんかじめじめしてそうなスリザリン寮所属の学生魔法使い名前・苗字が誕生しましたとさ。めでたしめでたし。



途中でさっきの男子生徒の後ろを通ったけど、もう彼はこっちを見ませんでした。


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