アルファベットドレッシングで三角形



鼻息を荒くして談話室に戻ってきたわたしを見て訝しげな顔をしたオリオンに一連の出来事を勢いに任せて全部話してしまった。
トム・リドルに言い放った捨て台詞あたりで堪えきれなくなったのか、声も出ないくらいに大爆笑している。いやいやまったく笑えないんですけど、学校一の秀才に頭突きかましたうえに綺麗なおでこにおそろいの青あざまでこさえちゃったんですけど、もし女子の皆さんに知れたら抹殺必至なんですけど!
頭が冷えてきて今さらながらやりすぎたかなとか後悔しそうになったけど、あの時見たあいつの笑顔の奥の冷めきった目を思い出してかぶりを振った。

「謝るのか?」
「わたしは断じて悪くありませんよオリオン君」
「まあな、ていうか女に抹殺されるより先にあいつにさ」

彼の言葉の最後のほうはボソボソ言ってて聞こえなかったがわたしは自分を奮い立たせるのに忙しいのでどうでもいい。ぐいっとかぼちゃジュースを飲みほしてゴブレットを勢いよくテーブルに置いた。

「ここで弱みを見せたらだめだよね。やましいことがないんだから強気でいないと。わたしが頭突きしましたけどなにか?くらいにドーンとかまえて」「あ、リドル」

音速でオリオンの影に隠れた。かつてないほど俊敏な動きをしてみせたわたしの頭上から呆れた声が降ってくる。

「強気はどうしたんだよお嬢ちゃん」
「は?強気なにそれおいしいの?そんなん一言も言った覚えねーし」

こちとら《ガンガンいこうぜ!》より《いのちをだいじに》の慎重派なんだよ。オリオンという名の壁の影からこっそり覗くと、お姉さんに囲まれたラスボ・・・トム・リドルは普段通りにこやかに対応していて特に変わった様子は見られない。聞こえてくる会話もいつものスイーツな内容。
なんだ怪我しなかったのか、なんてほっと息をついたところではっとした。わたしは悪くないぞ、心配なんてしてないんだから!

「ツンデレかよ」
「開心術ダメ絶対」
「うん、するまでもない」

顔に出ていると言われたので変顔で応戦したらおでこのアザをつつかれた。地味に痛い。

「女の子だろ、せっかく可愛い顔してんだから大事にしないとだめだぞ」
「オ、オリオンンンン!」
「よしよし、今夜俺の部屋に来るか?」
「オリオン・・・・・・」

なぜそうなるんだチャラ男め、せっかく途中までかっこよかったのに。性格は明るいし女の子に優しいオリオンだが恋人と長続きしない理由がすごくよくわかった。でも次から次に相手ができる理由もわかった。
壁がなにやら怪しい手の動きをし始めたので離れたら、なんとトム・リドルがじっとこっちを見ていて視線が合ってしまう。うわあ。

「めっちゃ見てるよガン見だよメンチ切ってるよ」

あれは仲間になりたそうな目じゃない、わたしにヤキ入れたいという目だそうに違いない。壁を突き抜けてくるようなメンチビームをひしひしと感じているわたしにオリオンが哀れそうな声で言う。

「そこまで気になるなら謝ればいいのに」
「・・・・・・」

それだけは絶対に嫌だ。

そのわりにあいつの機嫌は良さそうだ。オリオンはそう言ってフォローしてたけど嘘だとおもう。


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