「「潔子さん!今日も美しいっす!!」」 顔を赤らめて敬礼をする田中と西谷だが、何時ものように清子はシカトを貫き通す。 「「そんな潔子さんも素敵です!」」 「おい田中西谷!!清水追いかけるなら準備しろ準備!」 スコアボードを手に澤村は軽めの喝を入れた。 「ウッス!!でも清子さんは追いかけ続けます」 「流石、ノヤッさん!俺も着いて行きます!」 澤村はため息をつきながらバタバタと用具庫へ走って行くふたりを見送る。 そして手に持っていたスコアボードで清水を呼んだ。 「…はぁ。清水!今日の練習なんだが!」 「今行く」 澤村の元へ歩いていく清水を見送ると菅原はにや、と口端を上げた。 「でも一方の大地は純和風を追いかけてるから人のこと言えないべ」 ふと、こぼした菅原の言葉にネットとボールを運んでいた1年生の足が止まる。 「菅原さん、純和風…って誰ですか」 「影山ズリィ!!ハイハイ!俺も!俺も気になります!」 「あ、そっか。日向、影山…それに月島、山口の1年はまだ清水にしか会ってないよね」 な?と菅原は東峰にアイコンタクトを送る。 アイコンタクトを受け取った東峰はチラッと清水と会話中の澤村に目を向けるとうん、と頷いた。 「実はもう一人、マネがいるんだよ烏山には」 「え、この部員数で…ですか」 「つ、ツッキー!!」 ふうん、とメガネを中指で抑えながら月島はつぶやいた。 山口は慌ててそれを遮る…があまり意味はなかったようだ。 「がぁーーーー聞いてられねぇ!いいかよく聞け月島!清子さんがクールビューテーなら乙女さんは正しくナチュラルビューテーだ!!!なぁ龍!」 「ああ、ノヤっさんの言うとおり!!」 ダダダダダとボールの入った籠を押しながら走ってきた田中と西谷はビシッと月島に指を差す。 「何すかクールビューテーにナチュラルビューテーって。…ビューティじゃないんすか」 「ツッキー!」 鼻息を荒くして訴えるふたりに月島は冷静に返す。 「あはは…でも田中のはいい例えかもしれないね」 「旭さんあざす!」 東峰は膝サポーターを調節しながら苦笑いした。 「純和風は清水と同じ俺たちを支えてくれる3年のマネージャーだよ」 「え、先輩だったんすか!」 影山は驚きながら口元を抑える。 (しまった、さっき呼び捨てにしてしまった。) 「大丈夫だよ影山。あいつはそんなこと気にしないから」 口をあんぐりと開けた影山の肩を菅原はポン、と叩いた。 「でも」 「大地には気をつけろよ?」 「「え」」 ぴたりと場の空気が止まる。 「純和風は大地の可愛い可愛い彼女だからn」 くしゅん 突然、体育館の外から小さいくしゃみの音が扉越しに聞こえた。 「ん?外からくしゃみ…?誰っすかね?」 「ああ、多分きっと ふわり、と日向の髪が風に舞った。 日向たちの横を澤村が風のように走り抜くと扉へ一直線に走っていく。 ズダダダダダダ 「乙女!」 「え」 ガラガラっ!!! 「あ、大地くん。おつかれさま」 「お前、もう学校来て大丈夫なのか!」 「うん。さっき武田先生にも挨拶して来たよ」 澤村の猛ダッシュで開け放たれた扉越しに何やら女子との会話が聞こえる。 だが、ガタイのよい澤村の背中で隠れてしまい肝心の話し相手の女子が見えない。 「え、ちょ、菅原さん。澤村さん…これってふたりだけの世界っすか」 「純和風が体調不良でしばらく休んでたから少しは収まったと思ったんだけどな…まぁ、毎度のことだね」 「うん」 「どんな人だろーき、気になる〜!」 目の前の澤村の姿に対して影山の率直な感想に菅原と東峰はため息を着いた。 日向はぴょんぴょんと飛んだり脇から覗こうとするが澤村が絶妙な壁となっており、やはり見えない。 「学校にはさっき着いたのか?」 澤村自身、乙女と連絡をとってはいたが、久々に目の前にする乙女はやはり病み上がりの為か少し弱々しく見える。 「うん。そうだよ。HR終わったちょっとあとくらいかな」 「…驚いたぞ。まさか今日だったとはな」 だが、可愛らしいのはちっとも変わらない。 「ちょっと大地くんを驚かせたくて」 愛らしいほんわかした笑顔に澤村まで笑顔になってくる。 「乙女…お前」 聞こえるのはやはり会話だけ。 日向につられ、影山、山口もそわそわと扉の隙間から女子を拝もうとするがそれがなかなか見えそうで見えない。 三人と比べて月島はぶっきらぼうに構えているが、少し気になるようだ。 じっ、と「なんだ、この澤村の変わりようは」という目で澤村の背中を見ている。 「「あ、潔子さん!」」 1年につられ、一緒にそわそわしていた田中と西谷だが澤村より一足遅くやってきた清水にいち早く反応する。 だが勿論、清水は完全無視を貫き澤村が開け放った扉へ向かう。 「よく戻ってきたな、乙女!」 澤村はガバッと両腕を伸ばした。 「だ、大地く…きゃあ!」 「「「っ???!」」」 ブワッ!と目の前の視界が開けた。 そしてその場の全員、目の前の光景に目を大きく見開く。 澤村がすっぽりと姿の見えない女子に抱きついている。 こんな澤村、見たことない。 「な、な、ななななななな!!!」 「さ、澤村さんっ?!」 ウブな後輩たちは顔が真っ赤に染め上がる。 そして片手で顔お隠している東峰の顔も真っ赤だ。 「大地おまっ」 「…大地、、」 菅原も少し顔を赤らめながらやれやれと肩をすくめている。 清水はちらりと男子たちを傍観すると、澤村の両腕の中にすっぽりと収まった親友に声をかけた。 「おかえり、乙女」 ぷは、と澤村の大きな身体から顔出した乙女は頬を染めてふんわりと微笑んだ。 「た、ただいま。潔子ちゃん」 * |