「聞いてください、俺に好きな人ができたんです!」

ごちゃごちゃとした薄暗いゲームセンターの隅の休憩スペース。
そこに馴染みの二人の姿を認めて、四巡は得意げにそう言った。

「へー、おめでと。で、もう振られたんだろ?ヤッちまったんなら体の具合はどうだったか教えろよ」

だらしない姿勢で襤褸ソファーに腰掛け、舐めしゃぶっていた棒つきキャンディーを音を立てて噛み砕きながら、金髪の男がいう。
視線は手元のグラビア雑誌に注がれたままだ。

もうひとり、椅子に足を組んで腰掛けている色付きの眼鏡をかけた少年はニヤリとし、

「ふーん。片思い相手は、20〜30代もしくは40〜50代で日本人もしくは外国人の可能性も否定できないのを念頭に入れておいて、男性、もしくは女性、中年、あるいは高齢者かな。
君のことだから若年の可能性も否定しない方が賢明だといわざるを得ないね。
体型は、筋肉質でありやせ型、時々中肉中背〜肥満型で、着痩せや、着太りして見える見える場合もあるけど、
結局は君の御眼鏡に適った人ってことも考慮して、身長は、140〜160cm代もしくは、170〜180cm代でほぼ間違いないと思うけど、
140cm以下で、もしかしたら前提すら覆して普通に犯罪の可能性もあると考えておかないとね。通報しとこうか?」

つらつらとこれまでの四巡の遍歴を挙げ連ねて携帯を手にとった。
この場三人、いろいろと過去にやらかしているために通報はまずい。
金髪の彼がヒョイっと眼鏡の彼から携帯を取り上げて、ゲームアプリを起動させた。ピコポコと電子音。

そんな旧友二人の反応に、一大発表した四巡はがっくりと肩を落す。

「二人共、少しはまじめに聞いてくださいよ…。今までとは違うんですから…。」

「ほー、どこが」

グラビア雑誌を放り投げ、ゲームも早々に飽きたらしい彼が体を起こす。
やっと耳を傾ける気になったらしい彼に四巡は嬉しそうに報告する。

「なんと、まだ、抱きしめる以上のことはしてないんです。抱きしめるのも、一回だけ。」

二人は大きく吹き出した。
なんだそりゃ。

「そりゃおめでたいね。やっと理性でも芽生えたの?ゴミから三日月藻くらいには進化したんじゃない?」

「うわ、チコさん酷い。俺人間ですってば。芽生えたのは恋心です。」

チコと呼ばれた眼鏡の彼は、馬鹿にしきった表情で肩をすくめた。
惚れたら速攻で手を出してきた四巡にしては奥手だ、奥手すぎる。きっと何か悪いものを拾って食べたに違いなかった。それか中身をそっくり入れ替えられたか、脳みそに電極でも植えられてる。

「めんどくせーこと言ってねーでいつもみたいにとっと手篭めにすりゃいいじゃん?」

頭が弱い金髪の彼はそうやってきたせいで色々とひどい目にあっているが、懲りないらしい。
四巡は首を振った。

「……できないんですよ。したくて、したくてたまらないのに」

どこか困ったように笑って、四巡は自身の内情を説明しようと首を捻り「うーんと」唸った。

彼女はとてもやさしいから大抵のことは、ぷりぷり怒りながらも最後には、許してくれる。
身体だって、細く、軽くて、か弱く、小さくて、柔らかく、温かい。
力づくで奪って欲しいままに満たすことも、きっとその気になれば簡単過ぎるほどに簡単だ。

けれど、そうして抱くのは"違う"気がするのだ。

何か、心地良い物が壊れるような。
元には戻れないような。
いつもみたいに、仕方ないわね、って許してはくれないような。

その予感にも似た怯えが、最後の一線を超えることを恐れさせ、四巡を踏みとどまらせていた。

「面白いねぇ……」

「あーそりゃ恋だわ。テメーがねー…ふーん」

「やっぱり、そうですよね。どうしたら良いと思います?」

「ま、どうせダメだろうけど、頑張ってみなよ正攻法で。」

「んじゃ、さっさと告白すりゃいいんじゃね?」

「告白ですか?」

「酒で酔わせてから、愛してる!抱かせてくれ!!で、いいだろ。」

「……。あー、それは最終手段で頭の片隅に置いときますね。あまり短絡にはできませんよ。」

どうしても欲しい。
今までになく、真剣に、欲しい。

自分の欲の向くままに、ただ、身体で満足したい。
いつもならそれを満たせば終わり、なのに……その先がある気がして、下手な手を出せない。
触れたい、触れられない。

「と、いうわけで、日々悶々としてるんですけど、誰か解消に付き合ってくれませんか。部屋に女の子連れ込んだら烈火のごとく怒られて一週間以上口をきいてくれなかったんですよね。あんな辛い思いは散々です。」

ニッコリした四巡に、素早くチコは答える。

「ボクは恋人もペットもいるからパス。」

金髪の彼は四巡にねっとりとした情欲の視線をむけられて首をぶんぶんとふった。

「俺!?いやいやいや、だから俺は女専門だって言ってんだろナイナイナイナイ」

「いいじゃないですか。一度やってしまったら何回でも同じですよ。」

じりじりと詰め寄る。
金髪の彼は顔をひきつらせてのけぞった。顔に「マジかよ!?」とかいてある。
そんなふたりを見て、チコは溜息をついてボヤいた。

「……あー、アホくさ」

「呆れてねーで助けろチコ!裏切りもの!」

「はぁ?知らないよ。」

両手を握られて押し合いをしているが拮抗は崩れて、金髪の彼はどんどん押し負けている。

「ってか、結局ソレじゃん。馬鹿が恋したところでもっと馬鹿になるだけだよね。ヤリチン馬鹿は馬鹿同士乳繰り合ってなよ」

何気に酷い暴言を吐いて、彼は視線を逸らして、ヘッドホンを装着した。
野郎同士なんて見たくもない。

「ちょっ四巡!ひいいいいい触んな!気色悪ぃっ!分かった、あとで一緒にナンパして女ひっかけようぜ!手短な男でとか侘しすぎんだろ!!な!?」

暴れる彼に覆いかぶさり服を脱がしかけていた四巡は彼の本気の拒絶を感じ取って、小さく舌打ちして身体を離した。
跳ね上がるようにして起き上がり、半泣きで捲し上がった服を治す。
こういう妙に可愛い仕草が嗜虐心を煽っていることを彼は知らない。

結構いじめてしまうのだが、友達を失うわけにもいかない。
「友達を大事にしなさい」と言われているので無理強いは諦める。

「まったく、仕方ないですね。この貸しは高く付きますよ」

「俺なんも悪くねーのに!?ったく、しゃあねーな…何人か女友達呼ぶからよ…」

ぶつぶつ言いながら携帯を取り出して何度かコールする。

「あーもしもしーヨっちゃん?俺だけどさー」

こうやって呼ばれて来る女の中に、恋する彼女に似た子はいるだろうか。
いればいいな、と思いながら、四巡はソファに深く腰掛けた。





2012/07/01
悪友。四巡にも友達くらいいる、はず。
ということで、校外での彼の純情(?)青春(?)な姿。
四巡くんと、チコくんと金髪の彼はかつての不良仲間で、
今は学校が違うのでキャラ化学に登場して無い系どうでもいい裏設定。

チコ:グラサン、セミロングな髪で、口が悪い。見た目は小柄で女の子のような男の子。
金髪の彼:ざんばらツンツンヘアー、モブ顔、馬鹿というか頭が弱いが常識人チャラ男。
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