「鏡藍先生って目玉がお好きなんですよね。」

鏡藍の隣でカルラが突然、思い出したように言う。
彼は怪訝そうな表情を浮かべた。
あまり触れられたくはない話題だ。"おさえ"が効かなくなったら……

「なんだ、藪から棒に。」
「噂を色々聞いてますから」

カルラは少し面白がるような、それでいて真剣な声音で問う。

「私の目は、好きですか?」

彼はくらりと目眩がした。
奪えるものならば奪いたい。
なぜか、欲しいと思っても動かない右手。
欲望に反していまだ抉れずにいるその瞳。

「…欲しいと言えば、くれるのか?」

固い声。
鏡藍の瞳が微かに赤い燐光を帯びていくのを、彼女はじっくりと見つめている。

「……。」

押し黙る彼女の、真剣な表情がとろりと解ける。

「そうですね――…」

もっと。もっと。
鏡藍先生が私を愛してくれたなら。

瞳がなくなっても、彼の心が、愛が、存在が、分かるくらいになったなら。

その時は、
奪われるのではなく私から差し出そう。

だから。


「……まだ、あげません。」

カルラの答えに、彼の唇から暗い熱のこもった吐息が吐き出され、
温くなった紅茶を一気にあおることで鏡藍は彼女の視線から逃れた。




彼の忍耐、彼女の慈愛。
どちらが先に瞳に宿るのだろうか。




2012/06/29
慈愛ではなく自愛な気がする一幕。
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