四巡と同じ班に振り分けられて放課後教室で清掃活動をしていた猫市がちょっとした悪戯を思いついて彼に実行したのは、いつものノリでのことだった。
猫市にされるがままに床に仰向けに転がった四巡の腹の上に、猫市が指を握ったり開いたりしながらすごく良い笑顔で跨ったのを見て、乗っかられた当の四巡は目を白黒させていた。
なんだろう、この美味しいシュチュエーションは。猫市の短めのスカートから伸びる脚に目がいく。

「猫市さん退いてください。」

今は長い白衣で覆われてチラチラとしか見えない太腿だが、捲り上げて直に触りたくて堪らない。
痩せ我慢となけなしの理性の訴えは簡単に蹴っ飛ばされた。


「ダメ。ね、こうやって、ポーズとって」

「……。」

大人しく両腕を上で上げて、彼女を見上げる。目を輝かせる彼女が可愛らしい。ますます欲が疼く。
四巡が少し困った顔をしているのに気が付かず猫市はノンキに「意外と筋肉あるね」とか「ほうほう、こうしたらここがこうなって…」と呟いている。
どうやら自分を漫画か何かのモデルにされているらしい。
写真を撮られないだけ良いが、四巡は面白くない。

「……襲いますよ?」

半ば本気で言ったのだが、当の猫市は舐めきっているのかカラカラと笑いながら言った。

「できるもんならやってみろー。」

なんだって。一瞬耳を疑った。本人から許可がおりてしまった。なら、やってしまおうか。
我慢はあっさり飛んでいった。毎日の小言もすっかり忘れ去って、四巡は心底嬉しくなった。

「ありがとうございます。」

突然の礼の言葉にきょとんとした猫市を転がすようにして体勢を入れ替え、彼女の細い手首を素早く纏め上げて頭の上で押さえ付けた。
開かれた両足の間に体を割り込ませて閉じられなくする。微かに体重をかけて体の密着部位を多くして彼女の体の温もりを少しでも多く求めた。
空いている片手で白衣の裾を横に払って、ずっと触りたかった太腿の白い肌に手のひらを這わせる。擽ったそうに身を捩る猫市を四巡はうっとりと眺めてため息をついた。

「ああ、ずっとこうしたかった。」

「は?え?あの、四巡くん?」

「猫市さん、男を挑発するってことは、そういうコトなんですよ」

四巡のいつもとは違う雰囲気に猫市はようやく自身の身の危険を悟る。

「あっ、嘘、冗談!冗談だよね?」

片手で纏め握られた手首は地面に押さえ付けられているのに痛くはない。なのに振りほどこうとしてもびくともしなかった。前々から抱き上げられたりして力が強いなぁと思っていたが…、焦った猫市が覆いかぶさる四巡を涙目で睨む。

「何が冗談です…?こうする、ことが?」

ふと、いつもの笑顔を消して、四巡が真顔になった。視線に生々しい色を感じて身を強張らせる。

「冗談なわけがないでしょう。」

身を乗り出した四巡が猫市の首すじに頭を埋め吸い付いた。
ぞわりと体中に悪寒が走って猫市は叫び声をあげて庇護者であり捕食者の影に助けを求める。

「いや、ヤだよッ、かげちゃ、」

揺らめいた影を横目で見て、リボンをするりと引き抜きながら独り言のように言う。

「影さん、最近ご無沙汰でお腹を減らしてるんでしょう?邪魔しないなら、食事のお手伝いをしますよ」

すると、あろうことか黒い触手が、四巡ではなく猫市の手足を拘束した。
影ちゃんが大人しく自分以外の言うことを聞くなんて。昨日のお預けがそんなに堪えたのだろうか。

「ああ、叫んだら、猫先生が来てしまいますね」

自分のポケットに入っていた薄紅色のハンカチを口に押し込まれる。

「んんんっ」

淡々とことを運んでいく四巡が、友達ではない他の男のように思えてただひたすらに怖い。

逃げ道が塞がれていく。


ぼろぼろと猫市の瞳から涙が溢れだした。





2012/04/14
襲って泣かした…


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