珍しく風邪を患い学校に来れなかった保健委員の四巡に代わって、
体調が悪いという猫市を友達であるカルラが付き添い保健室に送り届けたその帰りのことだった。
カルラの向かいから廊下をトコトコ走る女の子がいた。
今はまだ授業中だ。
お手洗いにでもいくのかと思いきや、見事に通り過ぎていった。

「あっ、ちょっと待って!」

すれ違いざまに呼び止める。

足を止めて振り向いた彼女の、くるんと揺れる目を引く白く長い髪に見覚えがあった。
たしかこの子は、下級生の弁天能寺ゆすらちゃん。手に何故かネズミをつまみ上げていた。ピクリとも動かない…おもちゃだろうか。

「えっと。授業始まってるよ、どうしたの?」

この教室の並びには下級生が授業で使う場所はなかった筈だとカルラは疑問に感じ訊ねてみる。
まだ新入生の彼女だ。道に迷ったのかもしれない。

「えへへー、ねずみが走ってたのー。」

返ってきた答えが想定外で、カルラは思わず頭上に「?」を浮かべた。
新しいサボタージュの言い回しでなければ、もしかしなくても、その手に摘んでいるそれを今まで追い回していたのか。

「そ、そうなんだ。せっかく捕まえたところ悪いんだけど、そのねずみさんちょっと遠くにやりにいこうか?」

彼女に特にネズミを追いかける以外に目的が無いのだとすれば、授業に戻って貰った方が良いだろう。
けれども、教室に持って帰っては嫌がるクラスメイトもいるかもしれないので、そう言ったのだが…。ゆすらちゃんは少し考えてから、一つ頷いた。
そして、後方にぽいっと投げ捨てられたネズミの死体はその気軽な動作から有り得ない加速をみせて、廊下の向こう側の壁にぶち当たり、弾けた赤い絵の具になった。

「……。」

「どうしたのー?」

「ええっと、うん、まぁ…遠くにやったのね。」

ネズミの死体であったものを確認して、カルラは冷や汗をかいた。
あとで掃除しないとシミにな…違う。
どうしよう、ネズミの死体投げが学園で流行ったりしちゃったらとっても困る。

ともかく、ますますこのまま彼女を野放しにはできないとカルラは使命感を覚える。
ここで会ったが百年目、ちゃんと教室に返さないと。

意を決したカルラは、えいっ、とその手を掴んで引っ張って一年生の教室へと向かう。

「どこ行くのー?」

「教室よ。ゆすらちゃん。チャイムが鳴ったら、ねずみさんを追いかけたら駄目だよ。」

どうしてかイマイチ分かってない彼女とちぐはぐなやり取りをしながら、カルラは静かな廊下をゆすらの手を引いて歩いた。






2012/03/24
ゆすらちゃんとカルラちゃん遭遇してみた。



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