【キャラ化学】鏡先生+カルラ
体調が悪いらしいのに無理して、案の定倒れてしまったあの子を四巡の手を借りて保健室へと連れて行く。
彼女の力ない体を四巡から預かり丁寧に介抱する先生の優しい横顔に、私はあの子を少し羨ましく思ってしまう。
倒れちゃうほど苦しそうなのに「いいなぁ」だなんてあの子に失礼だと分かっている。
なのに、次の瞬間「私も倒れたら先生に構って貰えるだろうか」なんて事まで考えはじめててしまう身勝手な自分に、嫌気がさす。
四巡のように保健委員でもなく、そして普段も頗る健康な私は、
何かと理由をつけては保健室に訪れる。
…もしかして彼女や四巡と仲良くしているのも、そんな口実の一つなのかもしれない?
私は彼女の優しさにつけ込んで利用してるのかも。
そんな、あの子は私の大切な友達なのに。
ざわつくような罪悪感に血の気の引く感じがした。
どうしようもなく胸が痛かった。
「どうかしたか。」
その声に意識を引き戻される。先生が私を見ていた。
「どうもしません、」
嬉しい筈なのだけれど、こちらを窺うような視線が今は辛かった。誤魔化すようにして早口で答える。
思いを寄せる貴方を独り占めにしたいと、友情すら食い物にするどす黒く醜い嫉妬に浸っていました、
なんて言えるわけもなく無理やり口の端を薄く釣り上げて笑みを作った。
不自然だったろうか、先生の目が微かに眇められた。
私の頭に先生の手が伸びる。
突然のこと動けずにいたら額に手のひらが押し当てられた。
先生との距離が近かった。思わず俯く私を覗き込むようにして身長の高い先生が少し屈む。
「あの、本当に、何ともないですから」
鋭い視線に耐えきれずにぎゅっと目をつむったけれど、彼の感触と体温を鮮明にしただけだった。
頬に血が上る。
「…そうか。」
挙動が不審になりかけているが、別に発熱がある訳じゃない。
何も聞かないでくれた先生のそういう大人な所が好きで、でも離れていくその手のひらがちょっと寂しかったりもする。
「ご苦労だったな。茶でも飲んでいくといい、用意しよう。」
返事に窮してしまう。
先生とお茶だなんてうっかり、はしゃいでしまうほど嬉しい誘いだけども。
猫市ちゃんと四巡の手前、素直に喜べずにいた。
断ろうかどうか迷って、…結局断れなかった。
四巡は予定があるとかなんとか嘯いて帰ってしまった。
…私と先生と二人きり(猫市ちゃんも居るけど寝てるし)でお茶。
保健室に漂い始めたお茶の香りに引き寄せられるようにして、手際よくカップを2つ用意した先生のすぐ側の椅子にぎこちなく腰掛ける。
「…表情が暗いな」
「そんなこと無いです」
「鏡を見てから言うといい」
そんなに酷い顔をしているのだろうか頬に触れてみたけれどよく分からなかった。
「甘いものは食べるか?」
「あ、お茶請けなら…チョコレートですけど」
ポケットから今日のおやつにしようと思っていたものを取り出して、口を開けた。
「チョコレートが好きなのか?」
「はい、いつも持ち歩くぐらいには」
「なら、次はチョコレートを用意しておこう」
"次"という言葉に無意識に胸が高鳴った。痛みも罪悪感も忘れてしまって。
恋愛において何を犠牲にすればよいのだろう。
友情も罪悪感も、私の持ちうる全てを捧げれば報われるのだろうか。
この、どうしようもない思いが恋だというのなら、なんて恐ろしいんだろう。
「先生、大好きです」
何の脈略もなく私口をついて出た言葉にカップを優雅に口元に運んでいた先生が咽せた。
私を掻き乱す貴方。
これぐらいの応酬はいいだろう。
咳き込んでしまったその背中をさすり、やるせなくカルラは笑った。
10月27日
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