隣の椅子に女の子が座っている。
黒いセーラー制服で赤いタイが映える。
きりりとした面持ちで、まっすぐ前を見ているが、時折そっと視線を寄越すのに気がついていた。
私とそう変わらないように見えるその子は、ノアが言うには私もよく知る人物だという。
とある事情で姿が変わっているのだとか。
ノアの友達で私の知り合い(?)なら、まあきっとそんな事もあるんだろうと姿が変わるなんて謎現象はあまり深く詮索しない事にした。
どうせ説明されてもよく分からないに違いない。
ただ、ノアは知り合いだと言っていたのに、隣に座るその子は緊張しているのか、恥ずかしがりなのか、名乗ってくれない。
前の姿がどんなだったか、ノアからも説明はないまま、彼は他に用があると家を出てしまった。
なので、二人きり。
どう声をかけたものか…はじめましてじゃないし。
そのため、たまに目は合うが会話のきっかけを掴めずにいた。
でも、とりあえずはこの作戦…いつもポケットに忍ばせる心強い味方。

「ねえ、チョコレート食べる?」

いつも通りでいいやと思い切り、自分の好物を取り出して差し出した。
いくつかある中から、彼女は放課後によくお茶を共にする先輩が好んでいた金の包み紙の一つをそっとつまんで口に含む。

「おいしい。ありがとう」

はにかむ仕草に、既視感が募る。
もしかして…。

訊ねようとして、やめる。
そのうち教えてくれるだろうし。
話さないのは何か訳があるのかも。

姿が変わったとはいえ、きっと中身は同じはず。
私が予想したその人かどうか今はわからないけれど同じものを食べて美味しいと笑ってくれるなら、いいじゃない。

そう思って、ノアが戻ってくるまで、お菓子会を開いて過ごすことにしたのだった。




2015/06/03
マツリさんとカルラちゃん。
な、名前が出てこなかった……。

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